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シネマ365日

2012年3月6日

「旅立ちと出発の映画」特集6 精神科医ヘンリー・カーターの憂鬱 (2009年 群像劇映画)

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監督 ジョナス・ペイト
出演 ケヴィン・スペイシー

「憂鬱」も人生の友達 

 原題は「Shrink」(精神科医)。とくに「ゆううつ」ではないのですが、精神科医カーター先生のもとにやってくる人々は、ストレスでパソコンを床に叩きつける売れない脚本家、母の死後心を閉ざす不登校のアフリカ系女子生徒、夫が情事に走る盛りを過ぎた女優、指一本触れられたくない病的神経症の映画プロデューサー、酒に溺れ浮気願望に悶える名俳優▼そしてご本人のカーター先生は、かれらセレブの精神科医としてハリウッドにプールのある邸宅をもち、ベストセラーを出版し、テレビにも出演する、でも彼は妻が自殺することを止められなかったトラウマから逃れられず、いまやドラッグ漬けの毎日。なるほど、どの登場人物をみてもみな「ゆううつ」にはまりこんでいます▼映画は登場人物それぞれのエピソードを個別に紹介しながら、カーター先生の患者という一点で焦点が合う、いわゆる群像劇です。「マグノリア」とか「あの日欲望の大地で」とか「クラッシュ」みたいな作り方ですね。だから、というわけではないけど、話の進行が独立していて、どこでどう関係するのか、交錯するまでちょっと時間がかかります▼仕上げとすればけっこう「こってり味」ですね。カーター先生は妻が自殺してなかなか自分が立ち直れない、そこへ、患者としてやってきた女生徒の、母親の死因が自殺だと知って「治せるはずないじゃないか」と頭をかかえる。ケヴィン・スペイシーがあまり表情を動かさず、虚空をみつめるだけでドン底の懊悩を感じさせるところ、さすがだな▼大がかりなドンデン返しではなく、じわじわ、じわじわ、おや、なにか変化があったかな、という日常感覚で、登場人物たちは心の傷から回復、脱出する。映画的ドラマティックではない、という点ではとてもリアルなのですね、この映画▼何でも起こるのが人生「大逆転など人生にはない、そのうちなんとかなる」。自分も傷をもちながら日向ぼっこしてタバコを吸い、プールサイドで昼寝するカーター先生をくりかえし映すシーンがいい。人間、時期がきたらゆきつくところにゆきつく、そんな「ゆううつ」と友達になって生きようという、ゆったりした人生観が流れています。登場人物はみな、外見はどうあれ、傷つきやすくて思いやりがあり、心やさしい。全員そろって大団円はできすぎという気がしますが、人生の再出発を示唆するあたたかさがとてもいいです。

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