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シネマ365日

2012年3月11日

宮廷画家ゴヤは見た (2006年 社会派映画)

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監督 ミロス・フォアマン
出演 ステラン・スカルスガイド/ハビエル・バルデム/ナタリー・ポートマン

フォアマンの告発と鎮魂 

 思えばゴヤ(S・スカルスガイド)とは人間の残酷、醜悪、狡猾そして社会と時代に翻弄される無常と虚無を暴露させた画家だった。王妃の顔をヒキガエルみたいに描くかと思えば、純真なイネス(N・ポートマン)の透き通るような美しさをそのままカンバスに残す。ゴヤのテクニックをもってすれば美だろうと醜だろうと描破できないものはなかった▼甘美な音楽に虚無と死の風を送り込んだモーツアルトに惚れ込んだフォアマンは、19世紀末、中世から近世へ激変するスペインの人と社会を、赤肌がみえるまで皮をめくってみせたゴヤの仕事にも惚れ込んだのだ。ロマンティックとメロドラマは犬にでも食われろ、としか思っていない点ではこの人、ミケランジェロ・アントニオー二の直系である▼「アマデウス」の劇の引き回し役がサリエリであったように、本作ではロレンツオという修道士がそれをやる。「ノーカントリー」で悪夢のような殺人鬼となったハビエル・バルデムが演じ、イネスの一生を滅茶苦茶にする。ロレンツオは教会の権威回復のため異教徒審判の急先鋒をかつぎながら、自ら審問にかけらえると逃亡し、ナポレオンの手先をなって凱旋。地元の司政官に収まるや自分を追放した教会幹部を弾圧、ところがナポレオンが失脚し、英軍がスペインを解放すると教会が復権しロレンツオは死刑▼イネスはユダヤ教徒の疑いをかけられたために15年間を獄中で送る。富裕商人の父は、娘の無実をはらすためロレンツオを招いた席で拷問にかけるような腹の座った男である。しかしロレンツオの巧みな変節に時間を奪われているうちスペインは内乱へ。屋敷は戦火にあい家族は殺されていた。解放されたイネスの変わり果てた姿に観客は声を失うだろう。特殊メイクで容貌を変えたポートマンは神経を病み、獄中でロレンツオに犯され、産み落とした娘を探して街をさまよう▼娘は売春婦となって生きていたが、その存在が自分の旧悪をばらすとなって、ロレンツオはアメリカに追放する。なんでもありの悪漢である。要所要所に制作するゴヤが挿入される。死刑台に連行されるロレンツオをゴヤはデッサンし、イネスは狂った頭で、拾った赤子を抱き上げ「ロレンツオ、あなたの子よ」と呼びかける▼イネスの救いのなさに、フォアマンはゴヤを通して芸術と芸術家の無力さえ、告発していると思える。戦争と革命の混沌のあと、静寂を取り戻した街を、あわれなイネスをいたわりながら歩くゴヤの後ろ姿に、フォアマンの苦い鎮魂がただよう。

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