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シネマ365日

2012年3月19日

現金に手をだすな (1954年 暗黒街映画)

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監督 ジャック・ベッケル
出演 ジャン・ギャバン/リノ・バンチュラ/ジャンヌ・モロー

意地と粋の終局

 58年も前の映画なのに、書くことがいっぱいあるような気がするのは不思議だ。そのひとつは監督ジャック・ベッケルについて。フランス暗黒街(ミリュー)映画の元祖、なんていうと泉下のベッケルは苦笑するだろうが、ベッケルからピエール・メルヴィル(「サムライ」「仁義」)、そしてジョゼ・ジョバンニ(「ル・ジタン」)につながる暗黒街の系譜には、ハリウッドの鮮血に染まる射撃戦とはまったく異なる陰影がある▼ふたつ目はジャン・ギャバン。背の低いズングリした初老のギャング「うそつきマックス」を演じる。マックスは引退したがっている。最後の大仕事がこの映画のクライマックスである金塊強奪だ。見た目が全然さえないマックスの、立ち居振る舞いが驚くほど魅力的なのはなぜか。背の高い若くてハンサムな男ばかりに目がいくのは「考えものや」と若い娘たちにいいたくなる。その理由のひとつは、多少あらっぽいが、女をダメにする甘さのないことだ。アバズレの若いジャンヌ・モローにモノもいわず往復ビンタをくらわせる。バイオレンス男か…といえばそうではない、滋味のような思いやりがあって男も惚れる。だから困るのだ▼三つめ。ベッケルから直接学んだジョバンニはこう言っている「ドラマを豊かにするためには、ディテールの真実を積み重ねていかねばならない。なんでもない、ほんの小さな事柄や動きが、物語を支える」つまり映画に限らず小説であれ舞台であれ、およそクリエイトする者にとって絶対必要な技を、ベッケルは自分の映画にちりばめた▼それが「現金に手を出すな」だとどんなシーンになるのか。ジャン・ギャバンは仲間うちの会合で「今からメシを食うと夜も遅くなる。寝るのが遅れるのはかなわん」ラストではこうだ「早くしろ。オレは帰って寝たいのだ」初老の男の、こういう現実感あふれる台詞。それをいうジャン・ギャバンの貫禄、仕草、目付き。なにもない殺風景なテーブルで男二人が、白ワインを飲みながらラスクをかじる、その小さな音がきれいだった▼深夜の銃撃戦はハリウッドふう大アクションではなくリアルである。犠牲を払って強奪した金塊は炎に包まれ、最後の大仕事「グリスビー(盗み金)」は夢と消えた(主題曲のタイトルは「グリスビーのブルース」)。ギャバンは未練もなくいう「帰るぞ」。犯罪のやるせなさ、物悲しい顛末、結局はなにも残らなかった男たちの終局に、ベッケル監督は「意地と粋」を供えている。リノ・バンチュラのデビュー作でもあった。新人とは思えない新人に、ギャバンの目がとまったらしい。

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