女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

シネマ365日

2012年3月31日

沈黙の女 ロウフィールド館の惨劇 (1995年 サスペンス映画)

Pocket
LINEで送る

監督 クロード・シャブロル
出演 サンドリーヌ・ボネール/イザベル・ユベール

静かに移行する狂気

 情け容赦のない女というのが、カトリーヌ・アルレーの「わらの女」(1956)あたりから、推理・サスペンス小説に登場しはじめた。名探偵が解決する勧善懲悪ドラマにほど遠い、血も涙もない女たちである。「沈黙の女」の副題「ロウフィールド館の惨劇」(1977)は、イギリスの女流作家ルース・レンデルの小説だ。目の前の日常が、すべるように狂気に移行していく。シャブロル監督はそれを「柵を越える」というシーンで表現している▼ソフィ(サンドリーヌ・ボネール)は自分が失読症であることを死ぬほど秘密にしている。だれとも打ち解けず無関心を装って文字が読めないことをさとられまいとしている。それを除けば有能な家政婦だ。ソフィは裕福なルリエーヴル家に雇われ、一家はみな親切で彼女の家事能力に満足する。ソフィに友人ができた。郵便局に勤めるジャンヌ(イザベル・ユベール)だ。人の手紙は無断で盗み読みする、小包は開ける、とくに裕福なルリエーヴル家にたいするコンプレックスはジャンヌの嫉妬と憎悪をかきたてているが、不思議とソフィと気があう▼ルリエーヴル家ではソフィがジャンヌとつきあうことに不吉な予感がする。そうこうするうち、ソフィの失読症が末娘にわかってしまう。娘は「心配ないわ。治療すれば治ることよ、パパがお金をだしてくださるわ」とまるで天使だ。しかし…理由や根拠を拒否するところに成立するのが狂気であるから、なぜソフィに人の親切がわからないのかといっても通用しない。逆にソフィは自分の失読症を人にいえば自分もお前の妊娠をばらすと脅したことがわかり、1週間以内に出ていくよう解雇通告される▼ジャンヌと遊びほうけていっしょに帰宅し、広い庭を横切るときに白い柵を越える…ここから二人は狂気に踏み込んでいく。ソフィの寝室でふざけながら、次第に興奮した二人は書斎の銃を手に、一家そろってモーツアルトの歌劇を聞いているリビングへ侵入すると、ものも言わず射殺する。殺人のあと女二人は死体のそばで手持ち無沙汰だ。やることは100%やってしまって、もうなにもすることがない、そんなときの空虚が部屋を支配している。「じゃあね、あとは頼んだわ。警察に電話して帰ってきたら殺されていたというのよ」ジャンヌは連絡事項をすませるようにいって屋敷を出ていく▼ソフィは能面のような動かない表情の下に、ジャンヌは誇張した露悪的な表情の下にコンプレックスを秘め、歪んだ感情に火がつくのは時間の問題だと観客にはわかるが、スクリーンに現れる状況は余りに日常的でもの静かで、自分たちはなにか勘違いしているのだろうか、という錯覚に陥る。それがシャブロルという監督のリアリズムの怖さだろう。

Pocket
LINEで送る