女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

シネマ365日

2012年4月1日

再びヒッチコック特集1 サボタージュ(1936年 サスペンス映画)

Pocket
LINEで送る

監督 アルフレッド・ヒッチコック
出演 シルヴィア・シドニー/オスカー・ホモルカ/ジョン・ローダー

ロンドンを映す ヒッチコックの「眼」 

 日常のサスペンスはヒッチコックの好きなテーマのひとつだ。どこにでもある市民生活のなかに事件を見出す、というか事件になりうる素材をヒッチコックの監督術が映画にする。1936年の映画であるから、ヒッチコックはまだロンドンで映画製作に従事していた。ロンドンは彼の生まれた街だ。ロンドンの中心地から少し離れたイースト・エンドの一画で1899年8月13日に生まれた。父の職業は青物屋店主だった。「サボタージュ」に設定された野菜・果物の店は、だから彼が生まれて以来見て育った風景である▼ロンドンの街並みが息づいている。モンタージュ風で、余計な装飾がなく淡々として活気があり、後年「視覚の詩人」と異名をとるヒッチコックッの観察者としての「眼」は、知り抜いたふるさとを撮った「サボタージュ」で、はやくも開花したようだ。話が前後してしまうが「サボタージュ」で発火しやすいフィルムと映画館が爆破されるシーンの組み合わせ、最近どこかでみなかっただろうか。そうだ、クウェンティ・タランティーノの最新作「イングロリアス・バスターズ」がオマージュを捧げたのは「サボタージュ」だったのだ▼粗筋はロンドンの映画館主カール(オスカー・ホモルカ)は妻(シルヴィア・シドニー)の知らないところでロンドンを大停電にさせるなどのテロ行為に従事していた。次の標的はロンドン市長の就任パレードに爆弾を仕掛けることだった。映画観の隣の青果店に、店員を装って捜査をすすめる刑事(ジョン・ローダー)は爆破計画をつきとめるが、カールは裏をかくつもりで妻の弟に運ばせる。フィルムが発火しやすいのでバスに乗れない少年は、爆薬と知らず持ち歩くが、約束の時間が迫りバスに乗ってしまう。市中で満員のバスが昼の11時45分大爆発。妻は夫が仕掛けたテロ行為が結果的に最愛の弟の命を奪ったことが許せず、夫を刺殺する▼文章で書けばたったこれだけ、上映時間にして76分という短い映画が長く感じられる。少年が爆死させられるのが残酷だと指摘したのは当時の女性批評家C・L・レジューンだった。少年の死は原作者コンラッドの小説に忠実だったし、革命家テロリストの暗躍によって無辜の民が苦しめられるというテーマを大事にして、ヒッチコックはあえて採用した。もともとレジェーン女史はヒッチコックに好意的だった。撮影現場の彼はサディストであり、心理的な意味で相手のズボンをはぎとって大喜びする、とヒッチコックの本姓を見ぬいていた。こういうレジェーン女史の批評に気を配ったヒッチコックは、すぐさま彼女の判断に同意し、少年を死なせたのは失敗だったとのちに認める▼「サボタージュ」は「三十九夜」「間諜最後の日」を発表したあとの製作で、ヒッチコックはエネルギー旺盛だった。会話が知的だとか、ユーモアが小気味よいとか、好評な映画評に元気づけられた彼は、一週間分の給料をはたいて映画記者たちを、ロンドンの有名なレストラン「シンプソンズ」に招き、豪勢にもてなした。このとき次作について聞かれたが題名はまだ決まっていなかった▼しかしヒッチコックはきっちり「シンプソンズ」を次作「サボタージュ」にとりこんだ。刑事が好意を寄せる映画館主の妻と弟にステーキをおごるといい、生まれて初めて「シンプソンズ」のステーキが食べられるという弟の願望をかなえてやる。弟を溺愛する妻はそれだけで感激、刑事に対する夫の疑惑を「あんないい人はいない、弟にステーキをシンプソンズでごちそうしてくれたのよ」とはねつける。子供のころから内向的で外にも出ず(ヒッチコックは運動というものを生涯しなかった)読書が好きで、読書とともに孤独をいやす最適な方法のひとつは食べることにあると、早い時期に体得したヒッチコックの食べ物への愛が「サボタージュ」に如実だ。

Pocket
LINEで送る