女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

シネマ365日

2012年4月23日

アイリス (2002年 シリアスな映画)

Pocket
LINEで送る

監督 リチャード・エア
出演 ジュディ・デンチ/ケイト・ウィンスレット/ジム・ブロードベント

海の入り日

 「カラッポの脳でこれから先、どうやって妻は生きていくのですか」とジョン(ジム・ブロードベント)が医師にきく。スキャンした映像には萎縮した大脳と頭蓋骨の間の白い空白の部分が。かたわらでアイリス(ジュディ・デンチ)が宙をみつめている。アイリス・マードックはイギリスでもっとも素晴らしい女性と呼ばれた作家だ。ジョンとアイリスはオックスフォード大学で出会い、ジョンは大学教授に、アイリス(ケイト・ウィンスレット)は作家に進んだ▼若き日のジョンとアイリス。可能性に満ち輝いていた時代の二人がまぶしい。ジョンにとってのアイリスは、なんだろう、究極の存在なのだ。この立ち位置は死ぬまで変らなかった。「アイリス」はシリアスな社会派の映画であるとともに純愛物語でもある。回想と現在が入れ替わり、立ちかわり映し出され、音もなくしのびよるアイリスの悲劇。だれしもがこう思うはずだ「他人事ではない」▼ある日アイリスは自分が無意識に同じ言葉を二度言っているのに気づく「ね、今おなじこと言ったわよね」「そんなときってあるよ」とジョン。しかし…アイリスは小説執筆のかたわらテレビ番組のインタビューに出演したが、途中で言葉がでてこなくなった。認知症の事実をつきつけられながら、アイリスは力をふりしぼって原稿と格闘する。書きながら、何度も言葉をつかもうとするが字にならない。万年筆は虚しく意味のない線を引く。アイリスには尽きかけている自分の作家生命がわかる。まるで「暗闇を航海しているよう」な気分だった▼ジョンは施設を拒否し、アイリスとともに生活を維持しようとする。雨の中をぬれネズミのように徘徊する妻。動転して探す夫。日常生活が壊れ始め家はゴミ溜め、すえた匂いが充満する。ジョンは怒鳴る「君はすばらしい女性だった、ぼくのすべてだった、でもいまはお荷物だ」観客は苦い辛い、目をそむけたい現実に直面する▼ジョンはアイリスの施設入りを承諾する。24時間付きそうこともできる。アイリスはジョンに見守られて息をひきとる。海辺にひとりすわるアイリスがいた。波の音を聞きながら手帳をだし、書こうとするが思い出せる言葉はない。アイリス自身の残した言葉がある。「愛することを教えてくれたあなた。今度は忘れることを教えてください」忘れることは救済のひとつの形なのか。ものもいえなくなる映画だ。ジュディ・デンチは知性あふれるアイリスと精神の空虚となったアイリスを全身で演じた。なつかしい女友達をみわけ、夕暮れの浜辺で踊る。生涯に残された、ありったけの感情を取り戻したアイリスが切なくも美しい。

Pocket
LINEで送る