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特集「ディーバ(大女優)」

2012年5月3日

特集 ディーバ(大女優)1 イングリッド・バーグマン 誰が為に鐘は鳴る (1943年 恋愛映画)

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監督 サム・ウッド
出演 ゲーリー・クーパー/イングリッド・バーグマン/カティナ・パクシノワ

クーパーを眺める

 170分ですよ。3時間近く上映する中身があったろうか。ヘミングウェイ自身「誰が為に鐘は鳴る」を5回みたと言っている。それほど気に入ったのかというとそうではなく、自分のいいたいことが全部削られ、頭にきて最初の5分くらいで映画館を飛び出し、また気をとり直して入り、途中で怒って外に出て、また入り、それで5回にもなったって▼そうケチョンケチョンにけなさず、映画には必ずいいところがあるのだからともかく見ていきましょう。バーグマンは「カサブランカ」の撮影終了とともにシェラ・ネバダ山脈へ向かった。待望のマリア役に決まった喜びに輝いてロケ地に入った。ゲーリー・クーパーはさきに到着していて、バーグマンを認めると開口一番「やあ。マリアだろう?」。第一印象はハンサムな男だったとバーグマンは振り返っているが、話し始めるとクーパーはバーグマンをみおろしながらしゃべっていた。ハリウッドでは彼女をみおろせる俳優はそうたくさんはいなかった。ご存知のようにクーパーは190センチの身長である▼さっそく台詞の稽古をすることになった。クーパーの口調がふだんと全然変らなかった。バーグマンはそれがセリフだと気がつかなかった。しまいにクーパーがこういって促した「ぼくは台詞を読んでいるのだよ。いまのはセリフだよ」バーグマンはクーパーが雑談でも話しかけているのかと思ったのだ。クーパーは演技らしいことをなにもしなかった。顔は無表情だし声もボソボソ。それがあまり自然なのでバーグマンはカンが狂い、これでは全然かみあわないと一日目にして失望する▼しかしラッシュをみるとあのボソボソの、無表情なクーパーの全身がスクリーンを圧倒した。バーグマンは彼の実力を目の当たりにみる。クーパーのきわめてデリケートな演技が、静けさとしかいえないものをかもしていたことにバーグマンは脱帽する。以来彼女の仕事はゲーリー・クーパーを眺めることになった。おもしろいことにクーパーもバーグマンについて「彼女はシーンの気品を高める。なぜかというと彼女が文句なしに自然だからだ」と同じようなことを言っている。バーグマンはマリアが気にいって、原作を読み込んだだけでなくヘミングウェイがマリアについて書いているものをしらみつぶしに読んでいた。彼女はこの時28歳だったがどうみても28歳にはみえない。じつにあどけない。これは役作りなのか。それともクーパーがいう自然なのか。どっちでもいいがロケは1942年だったからシェラ・ネバダ山脈とはいえ戦争の影響は避けられなかった。星が満天に輝き山々の頂は荘重で、男物のズボンを縄でしばり、野生の山羊のように山を駆けるマリア役で、バーグマンが得るものが多かったことは確かだ▼ストーリーはもうご存知だろうが、スペイン内乱を舞台に人民戦線を支援するアメリカ人ロバート(ゲーリー・クーパー)と山地のジプシーにかくまわれている娘マリアの悲恋である。マリアは町長の娘だったが町を襲った右翼に髪を切られ、暴行され、山をさまよっているところをピラー(カティナ・バクシノワ)たちに助けられた。ロバートの任務は3日目の夜明けに橋を爆破することだ。この3日3晩がマリアとロバートにとって一生の恋になる。多くの部門でオスカーの候補になったが、受賞したのはゲリラの頭目の妻ピラーを演じたギリシャ人のカティナ・パクシノワ(助演女優賞)だった。彼女は料理の名人で、彼女のつくる手料理はロケ地のスタッフらを喜ばせた▼可哀想な馬のエピソードもあった。クーパーがラストシーンで落馬して脚を折る。実際には俳優の脚を折らずに転倒する演技のできる馬がいなかった。ハリウッドに一頭だけいた。運ばれてきたがクーパーの乗る馬は鹿毛でその馬は栗毛だった。メーキャップ係が毛の色を塗り変えたら馬はすっかり元気をなくし、24時間うなだれたままだった。なだめたりおだてたり、やっと名演技をみせてくれ、塗料を洗い落としたとたん元気になった。そんなことが楽しそうに自伝に書いてある。

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