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特集「ディーバ(大女優)」

2012年5月4日

特集 ディーバ(大女優)1 イングリッド・バーグマン ストロンボリ/神の土地 (1949年 社会派映画)

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監督 ロベルト・ロッセリーニ
出演 イングリッド・バーグマン

ヘミングウェイの手紙

 「1949年1月25日ロッセリーニ到着」とバーグマンは簡単に日記に書く。ロッセリーニの「無防備都市」に感激した彼女は、客席ががら空きなのをみて、こんないい映画がどうして見てもらえないのか、自分が出演したら少しは動員に役にたつのではないかと考え「スウェーデン女優が必要なときはいつでも出演する用意があります」とロッセリーニに手紙を書いたのだ。好意というべきか、親切というべきか、無邪気というべきか、博愛衆に及ぼす性格というべきか▼ロッセリーニは早速「ストロンボリ」の脚本をもってロスにきた。内容が暗くプロデューサーは手を引いた。つぎなる出資者を探しながら、バーグマン家に投宿したロッセリーニ(外貨規制で彼はほとんど金をもってこなかった)とイングリッドは、打ち合わせ、昼食、ときには二人だけの海岸のドライブ、パーティー、脚本会議を繰り返した。夫との間に隙間風がふいていたバーグマンは2ヶ月後ローマへ発った。ロッセリーニとの不倫騒動の発端だ▼筋書きは、第二次大戦のあとローマの難民キャンプに、東欧からの難民カリンがいた。彼女は自由の国アルゼンチンに行くのが夢だったが、書類の不備で旅券が発行されず、自分に求愛していた捕虜キャンプのアントニオと結婚、彼の故郷ストロンボリに渡る。活火山の島は貧しく黒い火山灰と岩でおおわれよそものに冷たかった。カリンは島を出ようと牧師やら灯台守やらに(誘惑も含め)協力を求めるが思うようにいかず、とうとう身重の身で島の向こう側の町に行って船に乗ろうと徒歩で出発、噴煙のガスで意識不明に陥る。気がついたカリンは火山から美しい海と島を見下ろし、子供のためにここで生きていこうと決心する▼全然楽しくない映画である。オールロケで撮られたが撮影は難航を極め、夜空を焦がすマグマを撮りにいった助監督は遭難した。島には郵便局があるだけでホテルも電話もなく、移動手段は徒歩。かろうじてロバがいた。女たちは老いも若きもモノクロの火山灰にみあった黒服を着ていた。バーグマンによればロッセリーニはひどく変わった人物で「捕らえ処がなく辛辣で怒りっぽく、情熱的で手がつけられないほど荒れ狂い、ばかにものわかりがよいところをみせるというように無限の顔をもっていて、映画の完成どころか撮影開始にこぎつけられるかどうかさえあやぶまれた」映画のなかで主人公がわざわざイタチにウサギを咬み殺させる、マグロ漁で鈎にかかってひきあげられる血まみれの、それも大量のマグロを、時間をかけて執拗に映すなど、確かに変わっていると思った▼ストロンボリにいるうちにも、バーグマンの駆け落ちはハリウッドでアメリカの、おおげさにいえば世界の非難をよびおこしていた。そんなとき届いたヘミングウェイからの手紙をバーグマンは大切にしていた。「娘よ」とヘミングウェイは呼びかけ「君にいってきかせたいことがある。人生は一度かぎりのものだ。人には名声も悪名もない。きみは大女優だ。大女優というやつは遅かれ早かれ大きなトラブルを起こす。人はしばしば間違った決断をくだす。間違った決断とはあやまってくだされた正しい決断を意味する。くよくよするな。くよくよして事態が好転したためしはない」▼バーグマンは離婚に同意しない夫と、アメリカに残してきた娘と、気分の不安定なロッセリーニの間できりきり舞いする。「ストロンボリ」は島からの脱出を図るヒロインと、数年後のバーグマンが二重写しになりそうな映画だ。荒涼とした火山島の風景はイタリアでのこれからの進路を暗示したのか。バーグマンはロッセリーニとの7年半に「ストロンボリ」のほか「ヨーロッパ1951年」「火刑台のジャンヌ・ダルク」など6本の映画を撮り三人の子を得る。男の子と双子の女の子だ。双子のうちひとりが女優となったイザベラ・ロッセリーニである▼社会的な問題を投げかけ、話題作であってもロッセリーニの映画はヒットしにくかった。娘にもあいたかった。アメリカにいる娘にバーグマンはせっせと手紙を書いた。胸をうつ手紙だ。お金は乏しくなり、バーグマンは仕事をする必要があった。1956年二人は別居に至る。そこへ「追想」の企画が持ち込まれた。ロッセリーニの反対をおしきってバーグマンは出演を決めた。ヘミングウェイのいうごとく、間違った決断に思えたものは、正しい決断にたどりついたのである。この時点で「追想」が彼女に二度目のオスカー主演女優賞をもたらすことをだれも知らない。バーグマンは41歳だった。

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