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特集「ディーバ(大女優)」

2012年5月5日

特集 ディーバ(大女優)1 イングリッド・バーグマン 追 想 (1956年 伝記映画)

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監督 アナトール・リトヴァク
出演 イングリッド・バーグマン/ユル・ブリンナー

成功の甘き香り

 濃い眉。ひきしまった口元。筋の通った鼻梁と意思の強いあごの張り。自信あふれる大胆な視線。彫刻的といわれるバーグマンの顔は、どちらかというと男顔なのである。うまく化けたなフーテン女、とばかりにアンナ(イングリッド・バーグマン)を侮辱し、退席しようとする元侍従長に「無礼者。許しもなく下がるとは」とバーグマンが一喝するシーンなど、キリッとした表情がじつによく決まっている▼「追想」は原題「アナスタシア」。ロシア革命で虐殺されたニコライ2世の家族のうち、末娘のアナスタシア生存説が根強かった1928年のパリ。ロシアの元将軍ボーニン(ユル・ブリンナー)ら4人は、ロマノフ王朝の遺産に目をつけ、アナスタシアを救出する目的で旧ロシア貴族から資金を集めていた。しかしいつまでたっても現れないアナスタシアに貴族たちはしびれをきらし、あと8日で皇女を探しださねば資本供給をうちきると最後通牒をつきつけた。ボーニンらはセーヌ川に身を投げようとしていた記憶喪失の女性アンナを、生死不明の皇女アナスタシアに仕立てることにした。ニコライ2世が皇女のために、英国銀行にあずけた預金は1000万ポンド。利子あわせて3600万ドルという大金をいただこうというわけだ▼旧貴族たちにアナスタシアを面通しさせる。彼らは圧倒的にアンナを「にせもの」だと判断する。窮地に陥ったボーニンは最期の切り札として、デンマークで余生を送る皇太后マリナ・フョードロヴィナ(ヘレン・ヘイズ)にアンナを孫娘であると認めさせようとする。アンナは精神病院で自分をアナスタシアと言っていたことがある。顔立ちも似ている。しかし現実にアナスタシアは銃殺されたのだ、ボーニンはそう信じている。だからここにいるアンナとは、頭のイカレタ中年の身元不明の文無し女なのだ。そのはずなのだがどうかした拍子にアンナが口にする片言隻語は、皇女でなければ知りえなかった真実味がある。ボーニンはアンナの気品がおかしがたいものであることに気づく▼アンナはアンナで自分のアイデンティティ・クライシス(自己認識の危機)に悩む。自分はだれなのか、アンナでもアナスタシアでもいいから本当のことを知りたい、だれもそれをわかってくれない。みな欲望のために自分を利用しようとするだけだ。ボーニンは8日間の間にアンナをアナスタシアらしくさせねばとダンスに語学にマナーの特訓。アンナは緊張とストレスでクタクタに疲れきり休ませてくれと懇願する。いいや、そうはいかんぞ、フーテン女の疲労だろうが過労だろうが3600万ドルのためにはオレの知ったことか。ユル・ブリンナーが冷酷で精悍な鷹のような目でアンナをにらみつけ、青光りする頭でワルツを強いるシーンは秀逸だ▼アナスタシア生存説はそもそもレーニンが、ニコライ2世は処刑したが家族は安全な場所にいると発表したことに端を発する。ソ連政府は女子供まで含めた全員の虐殺を隠したかったのかもしれない。1920年から30年代にかけて、少なくとも30人のアナスタシアが確認され、うちもっとも有名な「皇女」がアンナ・アンダーソンだった。ポーランド生まれのアメリカ人女性で結婚しヴァージニア州に住み、アナスタシアを支援する旧ロシア貴族らの援助金で夫婦は働かずに暮らし、1984年87歳で没した▼「追想」は「本物のアナスタシアがいた」説をとっている。鍵は祖母・皇太后の認知だ。さんざんにせものをみてきた皇太后はバーグマンに心を動かされるがイヤミばかり浴びせる。「おばあさま」「こころやすく呼ばないで。お金ならあげるわ。あなたはよくやったわ」「お金だなんて。そんなことをいわれるより叩かれたほうがよかった」そこでせきこむ。「体が悪いのね。医師にみてもらいなさい」「緊張すると咳がでるのです」(皇太后の顔色がかわる)「いつから」「子供のころからです」それこそ祖母の可愛がった、そしてだれも知っているはずのない孫娘のクセだった。ヘレン・ヘイズが好演だ。アナスタシアとボーニンに新しい人生を与え、記者がまちかまえている階下に、緋絨毯を下りながら「あの連中にどう言う? こういえばいいだけよ。芝居は終わった、お帰り」決めセリフのひとつだろう。ユル・ブリンナーの脂の乗りきった男ぶりはみものである。その年ブリンナーは46歳。「十戒」「追想」「王様と私」と大作・話題作にたてつづけに主演する絶好調にあった。「追想」はじつに「機熟した」ときにもたらされた映画だった。大ヒットとなった成功はバーグマンの後半生を決めた。もしこれが失敗だったらバーグマンは舞台女優としてだけ、残りの半生を生きたかもしれないのだ。舞台の名女優にはまちがいなかったが、映画という夢の宇宙で多くのファンに幸福感を与える世界のディーバ(大女優)となっていただろうか。名女優と大女優はちがう。ニューヨーク批評家協会はほとんど全員一致で最優秀女優賞を決めた。オスカーは二度目の主演女優賞だった。

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