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特集「ディーバ(大女優)」

2012年5月6日

特集 ディーバ(大女優)1 イングリッド・バーグマン 六番目の幸福 (1958年 事実に基づいた映画)

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監督 マーク・ロブソン
出演 イングリッド・バーグマン/クルト・ユルゲンス/ロバート・ドーナット

自分で決める「六番目の幸福」 

 私は傑作にしか出演しない、とバーグマンは常々言っていた。ヒッチコックは「傑作にしか出演しないというのだよ、ジャンヌ・ダルクとかね」と彼女の傑作主義にお手上げみたいだった。だから「六番目の幸福」もバーグマン流正攻法というか、まっとうかつ筋金入り重厚な映画だ▼「人はお互いに対して責任がある、という誠実で愛に満ちた信念をグラディス・エイルワールドは全うした。この映画は彼女の生涯を基に製作された」と冒頭の字幕に紹介がある。ヒロインのグラディス(イングリッド・バーグマン)は第二次世界大戦勃発前、シベリア鉄道でオランダ、ドイツ、ポーランド、ロシアを経由して大陸を横断し、ハルピンからテンシン入り、さらに中国奥地のワンチェン村に入って伝道した。グラディスを演じるのはバーグマンしかいないという監督の強い推薦があっただけに、バーグマンは一球入魂の熱演である。ファーストシーン。みるからにもっさりした、図体の大きな若い女性が重そうなトランクをさげ、ロンドンの伝道師会に行き、中国伝道に派遣してくれと頼む。冒頭の天上の高い混雑する駅シーンからそこまで、ロブソン監督得意のドキュメンタリタッチとバーグマンのとぼけた演技がすこぶるうまく噛みあう▼どうして中国なのか、衛生状態はよくないし、あなたは普通教育しか受けていない、伝道師の資格もないという責任者に「独学で勉強し伝道の手伝いもしました。人にはそれぞれの場所がある。私には中国なのです」と動じない。あまりの熱心さに「中国にいる友人に時間があれば手紙を書こう、彼女も年配だから協力者が要るだろう」聞くなりグラディスはペンを取って差し出す。今ここで書けというのである▼つぎに旅行代理店に寄り中国までの旅費をきく。船旅で90ポンド、シベリア横断で41ポンド。メイドをしながら得た日給を毎日代理店に持っていく。代理店の主任はグラディスにほだされ積立を引き受ける。メイド先の主人の書斎から中国関係の書籍を黙って借りていたことがばれる。なぜそんなことをしたという詰問に、中国の勉強をしたいのだと打ち明ける。グラディスがやっと41ポンドため、シベリア行きの列車に乗るときは、旅行代理店の主任も雇い主も、最初はつらく当たったグラディスの先輩家政婦も見送りにきて「いまなら間に合う、中国行きをやめろ」というシーンには笑ってしまった▼「六番目の幸福」とは中国の幸福観。1「富」2「長寿」3「健康」4「徳」5「安らかな死」そして六番目は自分でみつける。おしつけないところがいい。グラディスはワンチェンで伝道師ローラとともに「六番目の幸福」という旅館を経営し、ロバに乗った行商人たちに宿を提供し、彼らが食事するあいだ聖書の話をするのだ。ローラが事故死したあとグラディスの孤軍奮闘が始まる▼外国人を受け付けない奥地の村だったが、グラディスの正直で明るく、わけへだてのない性格に人々は心を許していく。村の県長(ロバート・ドーナット)からテン足禁止令を実行するためのテン足禁止委員を命じられたり、刑務所の暴動を単身鎮めに行ったり、孤児たちを養育したり、いつしか村人は彼女のことを「ジェナイ」(博愛の人)と呼んで慕う。刑務所の暴徒も山賊も彼女には従うようになる▼混血の陸軍大尉(のちに大佐)リンもまたグラディスの献身に友情と尊敬以上の愛を覚え、戦争の危険を説き帰国をさとすが馬耳東風。第二次大戦が始まり日本軍の攻撃が激しくなった。3週間以内に子供たちを西安に連れてくれば安全地帯にバスで避難できると聞いたグラディスは、ワンチェンからの脱出を決める。しかし道路は日本軍に封鎖された。5倍も遠回りになる山岳の剣路越えしかない。100人の孤児を連れ食事もろくにない逃避行だ。疲れ切った子供たちとグラディスは飢えと疲労で倒れそうになりながら歩く。西安では「3週間以内」というバスの出発の刻限が近づきつつあった▼もうこれ以上待てないというとき、かすかに歌声がきこえた。いちばん小さな子を背負ったグラディスを先頭に、ぼろぼろになった子供たちが民謡「オールド・マン」を歌いながら田舎道を歩いてきたのだ。髪はボサボサ、スカーフはどろまみれ、雨露しのいだ服も、ボロ布を足にしばりつけただけの履物も、これ以上ひどい格好はないのだが不思議とバーグマンは美しくみえる。自分がどんなシチュエーションでいちばんきれいにみえるか、内面外面あわせて、よくよくセルフ・プロデュースできる女優なのだ▼マーク・ロブソンにはオスカー監督賞が、バーグマンとロバート・ドーナットにはゴールデン・グローブ賞主演男女優賞が贈られた。ドーナットは僻地の権力者の傲岸不遜と差別のかたまりを演じ、ワンチェンから撤退する最後の夜「キリスト教に改宗する。公式記録にとどめよ」と命じてグラディスを号泣させる。58歳「六番目の幸福」が遺作となった。

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