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特集「ディーバ(大女優)」

2012年5月7日

特集 ディーバ(大女優)1 イングリッド・バーグマン さよならをもう一度 (1961年 恋愛映画)

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監督 アナトール・リトヴァク
出演 イングリッド・バーグマン/イヴ・モンタン/アンソニー・パーキンス

愛する資格がある

 いちばんのもうけ役はアンソニー・パーキンスだろう。フランソワーズ・サガンの小説によくでてくる、若くて頼りない、ハンサムで女にもてるがさらさらして、深い関係をつくるのが怖い…でも「さよならを」ではちがいましたよ、パーキンス君。この前年「サイコ」で究極のマザコン息子を演じブレーク。それに終わらず「審判」ではオーソン・ウェルズのカフカ世界の映像化の試みという難役に主演するなど、映画人としての可能性を秘めながら、エイズのため60歳で没しました。共演中バーグマンの誘惑にも乗らなかった逸話があります▼「追想」でいっしょにいい仕事をしたリトヴァクのもちこんだ企画だったが、バーグマンは最初乗り気でなく、かなりの注文をつけたあと引き受けたのは、なんといってもモンタンとパーキンスという配役が刺激的だったのだろう。この二人はまさに適役でこんなに楽しく仕事ができたのは久しぶりだ、劇中ポーラがフリップとロジェを同時に愛するのはなんの不思議もないと、機嫌のいい手紙を友人に書いている▼バーグマンは46歳だった。あまり起伏に富んでいないこの映画だが、ラスト近くバーグマンがパーキンスに別れを告げるというか引導をわたすというか、同棲していたアパートの階段を、後ろを振り返らず降りていくフィリップに「わたしは年をとっているのよ」と叫ぶシーンはクライマックスにちがいない。であるのにハリウッド通信は「愛に飢えた青年と、不実な恋人の板挟みになる中年女を演じるバーグマンが、46歳になるというのに力強く安定していて、年齢を気にする女性を演じても説得力に乏しい」と皮肉っぽい評をのせた▼舞台はパリ。トラック販売会社のロジェ(イヴ・モンタン)とインテリア・デザイナーのポーラ(バーグマン)は5年に及ぶ恋仲だが、最近ロジェは仕事にかまけ、ろくにポーラとあう時間をつくらない。浮気もする。ロジェはパリに住むアメリカ人の富豪夫人の内装にポーラを推薦、自宅で夫人を待つポーラの前に一人息子の25歳のフリップが現れ、一目惚れ。ロジェとの仲が単なる恋愛関係で結婚はしていないとわかったフィリップは勇気百倍する▼なにしろ金はある、職業は弁護士、トライアンフの二座スポーツタイプを乗り回す、世間知らずのお坊ちゃんの独善的な振る舞いにポーラは閉口するが、次第に一途な思いにうたれていく。ポーラが仕事を終え事務所をでようとすると、雨に打たれながらフィリップは待っていた。言葉を失うポーラを雨のなかでフィリップは抱きしめる。バーグマンが長身なものだからこういうシーン、なかなか絵になる相手役がいないのだけど、188センチのパーキンスは長い腕でしっかりバーグマンをくるみ、とてもきれいな写真になっていましたよ▼ポーラとフィリップは同棲を始めるが、フィリップは一歩も外に出ずポーラの帰りだけを待つ「閉じこもり愛」で仕事もやめてしまった。そのくせマキシムで豪勢なディナーをふるまい、これはもうニューヨークには帰らない人生の前祝いだと、次第にポーラの手におえなくなる。そのいっぽうでは、自業自得とはいえポーラと別れたロジェがポーラ恋しさに恋々とした日を送っていた…▼簡単にいえば三角関係の「会って離れて、離れて会って」のくりかえし。フィリップは断られても避けられてもはねつけられても、待ち伏せはする、不意は襲う。そのお詫びとして演奏会に誘う「昨日はすみません、ブラームスはお好きですか」…これが原題である(「ブラームスはお好き」)。演奏会のプログラムは交響曲第三番。満席で中に入れなかった二人は階段で演奏をきく。第三楽章だ。フィリップはお坊ちゃんかもしれないが愚鈍な青年ではない。ポーラの孤独を鋭く感じとり、自分はあなたを愛する資格がある、結婚する資格があると敢然と名乗りをあげる。青年の気迫にさすがのバーグマンもたじたじ。いい年をして純粋な、傍目を気にしない鬼火のような情熱をやらせたらアンソニー・パーキンスの独壇場です。リトヴァク監督は派手な盛り上げかたをしないが、こういう繊細な感性によって、忘れられないシーンを撮っています。フィリップとの激情愛から、日常にもどったポーラの安心とほろ苦さを、バーグマンがしっとりと演じています。彼女の衣装はディオールです。

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