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特集「ディーバ(大女優)」

2012年5月9日

特集 ディーバ(大女優)1 イングリッド・バーグマン サボテンの花 (1969年 恋愛コメディ映画)

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監督 ジーン・サックス
出演 ウォルター・マッソー/イングリッド・バーグマン/ゴールディ・ホーン/リック・レンツ

女のなかの女

 舞台劇と室内劇に強いチームが「サボテンの花」を撮った。脚本が「アパートの鍵貸します」のI・L・A・ダイアモンド。撮影が「暗くなるまで待って」のチャールズ・ラング。サックス監督とマッソーは「おかしな二人」で組むことになる仲。サックス監督は「サボテン」のあと「裸足で散歩」などブロードウェイのヒット作を手がける▼独身中年のジュリアン(ウォルター・マッソー)はニューヨーク五番街に開業する歯科医。恋人のトニー(ゴールディ・ホーン)には妻子があると嘘をつき、都合のいい関係を続けてきたが、トニーがそれに嫌気がさし自殺を図る。アパートの隣に住む若い作家志望の青年イゴールがガスの匂いをかぎつけ未然に防ぐ。自殺騒ぎに懲りたジュリアンは結婚しようという。トニーが奥さんに会いたいといいだしたことから話はややこしくなる。一計を案じたジュリアンは看護師のステファニー(バーグマン)を妻に仕立て、急場をのりきろうとする▼ステファニーは10年間、ジュリアンの歯科医院に勤める彼の右腕である。バシッとノリの効いた真っ白な看護師の服で1分の遅刻もなく受付にすわり、ジュリアンの助手もやれば患者の対応はむろん、治療費の回収、アポイントのスケジュール、ジュリアンの好きなサンドイッチのお弁当、クリーニングの出し入れまですべてを把握している。ただし「昼間だけ」。スウェーデンなまりがぬけないステファニーは中年の美人だ。姉の家に同居し甥をかわいがり、日曜日のたびに公園に連れていき、大好きなアイスクリームを買ってあげる。生活は堅実で仕事をテキパキ処理するしっかりものだ▼だからステファニー目当てにいいよる男は多い。ふだんは肘鉄を食らわせているが、ジュリアンの妻を演じるといういきがかり上、彼の友達といっしょに食事するシーンがある。舞台劇独特のセリフのやりとりが面白い。男「ドレスだと見違える。ふだんは歩く包帯だが」ステファニー「どう見えても平気。手をどけて」男「おれのヒザかと思っていた。踊ろうよ」ステファニー「まっぴらよ」男「じゃ酒を飲め。おれが男前にみえる」ステファニー「麻薬でもムリ」▼ファーストシーンのドタバタから20分ほどしてバーグマンの登場になる。無愛想でくそまじめに、みけんにしわを寄せ「どっこいしょ」と受付にすわるバーグマンに観客はふきだしそうになる。そのバーグマンがニセ妻やら、にわか仕立ての母親やらになり、ディナーやナイトクラブに出没するシーンになると、映画はだんだんバーグマンのペースになっていくのだ。映画の陽気な雰囲気はバーグマンのとぼけた看護師のおかげだ、としかいいようがない。なぜといって…マッソーやホーンではなくバーグマンが現れてしゃべるシーンで観客は笑っている。制作費300万ドルだった「サボテンの花」はなんと北米だけで1185万ドルをあげる大ヒットになった▼主題歌はクインシー・ジョーンズの音楽で「恋は時間を選ばない/季節も年も選ばない/いつでもが恋のとき/いつ訪れるかわからない/恋をつかまえるのはあなたの心/遅咲きの花は命が長い」。サボテンの花はめったに咲かないから、サボテンとは「花のない女」この映画ではバーグマンをさす。つまりタイトルロールは彼女である。「サボテン」のヒロインの性格をバーグマンは気にいって、ボケ役の三枚目をさっそく次作「オリエント急行殺人事件」に取り入れた。そして別の舞台公演でなされた、ヒロインの年齢が恋をするには年をとりすぎているという批評に対しては「ヒロインが35歳か36歳である必要はありません。こんにちの女性の恋愛生活は40歳では終わらないのです。コンスタンス(ヒロインの名前)は50歳でも60歳でもー自信はありませんが70代でもよいのではないでしょうか」と持論を述べ、年齢によって恋愛にさえ差別を強いられる中年女性の溜飲をさげた▼マッソーとホーンとバーグマンの三人はたちまち意気投合した。撮影が終わったときホーンは「あの人は女のなかの女よ。とても心があたたかいから男たちはこわさを感じないわ。彼女は王者にふさわしい威厳をそなえているわ。どこかの国の女王でないのが残念なくらいよ」堂々としたメス虎のように舞台に飛び出してきた18歳の演劇少女は、54歳のこのときもメス虎の威厳を失っていない。

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