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シネマ365日

2012年5月15日

モロッコ (1930年 恋愛映画)

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監督 ジョセフ・フォン・スタンバーグ
出演 マレーネ・ディートリッヒ/ゲーリー・クーパー/アドルフ・マンジュ

スター誕生

 スタンバーグがいなかったらディートリッヒはいただろうか。彼女は自伝で書いている「彼はわたしを創造したのだ。同じような奇跡はルキノ・ヴィスコンティがヘルムート・ベルガーと映画を作ったときだけだ。わたしは時間と規律を守り、いつどこででもスタンバーグの指示に従った。彼がわたしに関心をもったのは、わたしが折り目正しい人間だったからだ。わたしの美だとか魅力とかではなく、女優にはほとんどみられない独特の自制心が彼をひきつけたのだ」▼「モロッコ」はしかし難しかった。監督の注文は「謎めいた女」だった。みてくれはどうあれ、よき母であり主婦であり、無類の料理好きで面倒見がよく、全然謎めいていなかったディートリッヒは大いに苦労した。客船がモロッコの港につこうとしている。舷側によりかかるディートリッヒは無表情だ。喜びも悲しみも表さない。金持ちの紳士ベシエール(アドルフ・マンジュ)が「マドモアゼル、荷物をお持ちしましょうか」に、気だるそうにそれには及ばないと答える▼このときの「ヘルプ」の発音がドイツ人のディートリッヒはなかなかできず、その日の撮影が終わったとたん化粧室に逃げ込んで泣き、この名前も変えたいと監督に訴えた「君の名前はやがてどこででも知られるようになる」がスタンバーグの答だった。彼は前作「嘆きの天使」でディートリッヒを発掘してから、ディートリッヒを女優ではなく、スターにすることに賭けたのだ▼白黒の映像から、モロッコの光と影、砂漠の風が伝わってくる。映画は完成したが試写会では一人、また二人と記者が途中で去った。ディートリッヒは絶望しその夜のうちに荷物をまとめ、帰国すると翌朝監督に電話した。スタンバーグはひきとめなかったがその前に事務所によれと言った。やってきたディートリッヒに示した。新星ディートリッヒを絶賛する記事だった。ディートリッヒはその記者に感謝を忘れなかった▼「モロッコ」は知らなくてもラストだけは知っている映画ファンは多い。モロッコをあとにする外人部隊のゲーリー・クーパーを、見送りにきたディートリッヒの耳に、出発を告げる太鼓のダンダンという音が彼女の鼓動のように高まっていく。女は耐えられなくなる。婚約者を抱きしめて別れを告げ砂漠に走りだす。砂に足をとられ靴を棄てる。裸足で熱砂が走れるかというクソリアリズムはふっとんでしまう。遠くなる太鼓の音、はためく大きな旗が砂丘に消えていく。キャメラのダ・ヴィンチといわれたスタンバーグの撮影術は、映画史に残るこのラストシーンともうひとつ、ディートリッヒというまぎれもない「スター」を生み出したのだった。

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