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シネマ365日

2012年5月16日

上海特急 (1932年 恋愛映画)

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監督 ジョセフ・フォン・スタンバーグ
出演 マレーネ・ディートリッヒ/クライブ・グルック

悲劇と退廃の似あう女 

 スタンバーグとディートリッヒは七作をいっしょに撮っている。「上海特急」はその三作目だ。「モロッコ」の成功によって二人は映画界の黄金コンビとなった。ディートリッヒの自伝によれば「スタンバーグが指導してくれる前のわたしは取るにたらぬ人間だった。彼の映画で私が演じた役に対して受けるどんな賞も、私に与えられるべきではない。私は順応性のある素材以外のなにものでもなかった。フォン・スタンバーグが私を使って撮った数々の映画がそれを語っている。映画製作者たちは永遠にそれを模倣することしかできない」▼全身全霊を打ち込むとはそのときのスタンバーグをいうのではないかと思う。一人の女優を育て上げる、それは映画ビジネスにすべてを、彼の場合はディートリッヒにすべてを捧げつくすことだった。スタンバーグには妻がいたしディートリッヒにも夫がいた。映画会社はスキャンダルをおそれ「西班牙狂想曲」(1935)をもって二人の共同製作を打ち切る。いまならスキャンダルはワイドショーのネタでしかないが、当時は特に女優には命取りだった▼「上海特急」は二人の仕事に脂が乗ってきたときの映画だ。スタンバーグはゆめディートリッヒに幸せな女性像を求めなかった。娼婦、スパイ、男を破滅させる女でありながら一身を犠牲にしても愛に殉じる。それがディートリッヒの演じる女の場合、男のためではなく、どこまでも自分の愛のために死ぬのだ。スタンバーグは女学校の寄宿舎でゲーテに夢中になり、カントを暗唱したくそまじめな硬派の女には、そしてふくよかさとは縁のないディートリッヒの容貌と長いきれいな冷たい脚は、悲劇と悪と退廃が似合うと見ぬいたのだ▼「上海特急」も例外ではない。北京から上海まで3日間走る特急に、中国沿岸を流れ歩く「上海リリー」と呼ばれる娼婦(M・ディートリッヒ)と元愛人の英国陸軍の軍医(クライブ・グルック)が乗り合わす。軍医は今でもリリーを愛しているが、二人の間にはもはや越えがたい壁がある。列車は中国の叛軍によって軍医が勾留される。もちろんディートリッヒが助けるのだが、男にはそれがわからない▼スタンバーグはディートリッヒを美しく撮ることに全力をあげ、白黒フィルムの微妙な陰影は空気まで映し、それに比べたら同じ主役級とはいえ、男優のほうは、ゆで玉子でさえもう少しましに撮られただろうと思うほどだ。

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