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シネマ365日

2012年5月26日

哀しみのトリスターナ (1970年 文芸映画)

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監督 ルイス・ブニュエル
出演 カトリーヌ・ドヌーブ/フェルナンド・レイ/フランコ・ネロ

女メフィストフェレス

 無垢な少女から悪夢のような女へ、カトリーヌ・ドヌーブがルイス・ブニュエルと組み、悪魔に魂を乗っ取られた(あるいは売り渡した)女メフィストフレスを怪演します。名作「昼顔」ふたたび、と思えるくらいドヌーブは張り切っています。こういう悪女役、好きみたいですよ。どんな悪女か。ジャンヌ・モローの「イヴの匂い」みたいにスクリーンに登場したとたんの徹底的悪女でなく、可憐な少女から性にめざめ、男の比較を覚え、モンスターのような自分の力に気づくという悪女のことです▼母親が亡くなり16歳で孤児となったトリスターナ(C・ドヌーブ)は、老貴族のドン・ロペ(フェルナンド・レイ)に引き取られる。ロペは養女どころか、たちまち好色な本性を現し、トリスターナを玩弄し夫婦として暮らす。トリスターナは青年画家オラーシオ(フランコ・ネロ)を知って恋にめざめ、駆け落ち。数年後オランシオがロペを訪ね、トリスターナが戻りたがっていると告げる▼彼女は腫瘍で脚を切断せねばならなかった。ロペは姉の遺産は入る、売った家具食器は買い戻す、トリスターナはもどってくる、人生そんなに悪いことばかりではないと、満ち足りてトリスターナを溺愛する。しかしトリスターナは魂が入れ替わっていた。冷酷な目付き。うってかわった酷薄なロペへの態度。人をバカにした乱暴な言葉づかい。オラーシオにさえ「なぜ私を帰したの?」「君がロペのところに帰ると言った」「ロペなら帰さないわ」と因縁をつける始末。脚とともに「いい人」であることも失ったようで、手におえない女に変貌した。ロペは猫が子猫を舐めるように世話をやき車椅子を押し、教会の帰りには「温かいものでも飲んでいこうか」とやさしくいたわるのに、木で鼻をくくったように「話をしたくないわ」全身でロペを忌み嫌い、だからなにも要求しないかと思えばおおちがい、あれをしろ、これをしろ、老いたロペを下男のようにこきつかうとき、表情は生き生きと残酷な生彩を放つ▼とても16歳とは思えないオープニングだったが(ドヌーブはこのとき27歳だった)それでも初々しいことは初々しかったトリスターナが、毒蛇みたいな目でにらみつけるのだ。長年トリスターナに仕える小間使いでさえ「あなたのなかには悪魔がいますよ」と怖がるが(フンそれがどうした)歯牙にもかけない。生まれてはじめて自分の打ち込むべき仕事をみつけたとばかり、さんざん男を翻弄したトリスターナは最後の仕上げにロペと結婚する。式をあげ家に戻りロペがいっしょの寝室にはいろうとすると、くるり振り返りざま「その年で? おかしいわ。ハハ」大声で嘲笑する。ロペ呆然。三界に家なし▼これが若き日の復讐のためだけになされることといえるだろうか。そんなまともなことを考えるブニュエルではない。彼はトリスターナの悪を目覚めさせたのだ。聖女のような、慎ましく、世界を肯定し前向きに生きる善良な魂から、冷酷無比な殺人者、世界のすべてを否定する魔・メフィストフェレスへ。この二重性こそブニュエルの大好きなテーマで、ホイと溝をまたぐように変身するドヌーブもけっこうやるものですね。ドヌーブのなにを考えているかわからない表情のなさが大いにさいわいしている。ロジェ・ヴァディムが連れ歩いていたころの17歳の彼女の無表情なところは、BBにいわせるといくらかドンくさくて、いらいらさせられたそうだ。原題は「トリスターナ」これが正解だよね。「哀しみの」は余計でしょう。蘇ったトリスターナならともかく。

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