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シネマ365日

2012年5月31日

イン・ザ・カット (2003年 ミステリー映画)

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監督 ジェーン・カンピオン
出演 メグ・ライアン/マーク・ラファロ/ジェニファー・ジェーソン・リー

ニューヨークの透明感 

 ロマンティック・コメディの女王、メグ・ライアンが、表情は暗い、着ているものはダサイ、全身に疲れをにじませた中年女を演じるカンピオン監督作品に挑みました。昼は教師、夜は娼婦、大都会の男たちの間を彷徨し、転落のあげく最後は殺される幸薄い女性を描いた「ミスター・グッドバーを探して」がありました。性と抑圧は双子の存在ですが「イン・ザ・カット」ではどうなのだろ▼「イン・ザ・カット」というタイトルがそのもの「割れ目」あるいは「安全な隠れ場所」で女性性器を指す隠語だけど、主人公のフラニー(メグ・ライアン)は「ミスター・グッドバー」のダイアン・キートンほど悪魔的じゃなかったように思えるのよね。セックスの抑圧というより、子供のころの両親の離別がトラウマになり、40歳を過ぎた今も、セックスを含めてうまく人間関係を結べない、一言でいえば人を好きになるのが怖い、このままひっそり生きていこうという、幼年期が凍結したような現在に至っているでしょう。彼女の心を溶解したのはセックスではなく男を好きになれた信頼と愛情ですよ。映画のあとどこか救われた感じがしたのは、彼女の人生に愛がはいりこんできたからだと思うな。「ミスター・グッドバー」ではそんなカケラもなかったものね▼フラニーが唯一心を打ち解けさせたのは、腹違いの妹のポーリー(J・J・リー)。妹は姉とちがい感情の露出が激しく、結婚願望が強いのだけどどちらも姉思い、妹思いだ。二人がじゃれあっているところは、両親の愛に恵まれなかった姉妹が、肩よせあって子供のころのままの濃い密着感で生きている感じがよくでていた。「ピアノ・レッスン」でも母娘の絆って強かったでしょう、直接ストーリーには関係ないこういうシーン、カンピオン監督独特の肌理の細かさ、映画的言語ですね▼猟奇連続殺人の犯人をつきとめていく本筋と、ヒロイン・フラニーの心の窓が開いていくもうひとつの筋が交錯しあって「イン・ザ・カット」は進みますが、途中まで映画がどこに着地するのか見当がつかない、ストーリーはそんな不透明感にまぶされているが、スクリーンにはニューヨークという都会の渇いた砂漠のような清澄感がある。とくにヒロインが危機を脱して家に向かう、ニューヨークの夜明けの舗道には「ピアノ・レッスン」で、冒頭いきなり観客につきつけた、荒々しい北の海岸の冷たさに通じる清潔な感性があります▼製作はニコール・キッドマン。彼女は長年この企画をあたため「ある貴婦人の肖像」をカンピオン監督と撮り終え、いよいよお気に入りのフラニー役で主演するはずでした。ところがメグ・ライアンが熱望し、カンピオン監督のもとにおしかけ、その場でリハーサルをして譲ってもらったという仲良し三人組の結論となった、いわくがあります。

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