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特集「ディーバ(大女優)」

2012年6月1日

特集 ディーバ(大女優) 悪女の元祖 ベティ・デイビス 痴人の愛 (1934年 社会派映画)

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監督 ジョン・クロムウェル
出演 ベティ・デイビス/レスリー・ハワード

毒があることはサソリの罪か

 ある種というか、ある性格というか、つまり真面目で誠実でやさしくて、扱いやすくて、知性も教養もあるから、とても自分を棄てるなどという荒っぽいことなんかできない、だからちょっと退屈で面白みはないけれどこの男なら大丈夫と、女がそう値踏みする男(男のほうこそたいへんなのだけど)自分が支配できると本能的に察知できる男が、たぶんいるのでしょうね▼「痴人の愛」のミルドレッド(ベティ・デイビス)とフィリップ(レスリー・ハワード)の関係なんか蛇と、蛇ににらまれたカエルなのよね。「こんな女、こんな女、どうしようもないこんな女、ヘドが出る女」と呪いながら呪縛にあったようにズルズル引きずり込まれてきた。でもね、本音をいうとちょっとミルドレッドがかわいそうだったわ。サソリにむかって「お前が毒をもっているから気にいらない、お前のふりかざすハサミが嫌いだ、お前の尻尾の形がブサイクだからあっち行け」そんなこと言ってもサソリの罪じゃないでしょ。毒があるのはサソリの自然だからね▼気の強いアバズレを好きになったのはフィリップなのだし、女は女でこの男なら芝居にも連れていってくれるし、ごちそうもしてくれるし、自分にベタ惚れだから突き放しても寄ってくる、よしよし、つきあってソンはないと踏んだ。まあサソリやコブラを飼い慣らそうなんて思うのが間違いよ。フィリップの不運はそのへんのことをはっきり言ってあげる、経験をつんだメンター(相談相手)がいなかったことね。でもそんなふうに言ってしまったら「痴人の愛」は前へ進まないからほかのことをみつけよう▼レスリー・ハワードという人、思い出した? 彼は「風とともに去りぬ」のアシュレーなのよ。スカーレット・オハラが恋焦がれる隣のお兄さん。なぜか気の強い女に縁があるのね。「別離」でもイングリッド・バーグマンが恋するものの、男は家族のもとに帰る良識派を演じる。悲劇は「レスリー・ハワード搭乗機誤撃事件」だった。1943年第二次世界大戦中、兵士の応援講演で飛び回っていたハワードが、ビスケー湾の公海上でドイツ空軍に攻撃され墜落。17人の搭乗者は全員死亡した。50歳。俳優として脂の乗り切ったときだったのに▼「痴人の愛」は原作サマセット・モームの「人間の絆」。このあと二度映画化され、キム・ノヴァクもミルドレッドを演じているけど、やっぱりデイビスの強烈さにはかなわない。意地の悪さ、毒々しさ、自己愛の権化、最後には結核で死ぬ(原作は梅毒なのだけど)、あまりの壮絶さに女優たちはクロムウェル監督のオファを断った、デイビスだけが引き受けたと淀川長治さんの解説にある。これが運命の分かれ目だった。デイビスの腹のすわった演技は銀幕のヒロイン像をくつがえした。デイビスのミルドレッドに比べたらフィリップはいい人かもしれないが影が薄い▼もちろん現実の家庭生活では満点の夫だ。結婚するならフィリップ君である。ミルドレッドが死んでフィリップは呪いから解放されたと正直に告白している。でもくりかえすが、毒のあることはサソリの罪か。観客が映画に求めるものは茶の間の延長か。デイビスがこの役を選んだ理由がわかる気がする。可愛い女は自分のガラではないとわかっていたからだ。毒があろうと針があろうと、人を傷つけようとはめようと、善悪すら関係ない、自分が自分であるためになにかを思い切りやる、そんな女が好きだったからだ。ミルドレッドの悲劇にこそドラマはあると女優の本能は教えたのだ。デイビスの捨て身の選択は、アメリカ映画にひとつのジャンルを、ファム・ファタール(運命の女)というジャンルを指し示した▼粗筋は、知性的で繊細な医学生フィリップ(レスリー・ハワード)がカフェの給仕ミルドレッドに恋する。彼女はフィリップの足が不自由なことをあけすけに指摘するような品性の持ち主でエゴイストのかたまり。フィリップは男らしく結婚を申し込むが、それを蹴って面白おかしいだけで誠実みのない男と結婚するといい、去る。失意のフィリップは若い女流作家ノーラと出会い、彼女のいたわりのある愛情に平穏な日々をとりもどし医学の勉強に打ち込む。そこへ現れたのだ、ミルドレッドが。男に棄てられ妊娠していた。これは序の口で以後ミルドレッドは現れるたびフィリップの生活と未来を破壊する。さんざん翻弄されミルドレッドが死んでくれてやっとフィリップは生きた心地がし、恋人と新しい人生に踏み出すのです。

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