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特集「ディーバ(大女優)」

2012年6月2日

特集 ディーバ(大女優) 悪女の元祖 ベティ・デイビス 化石の森 (1936年 犯罪映画)

監督 アーチー・L・メイヨ
出演 ベティ・デイビス/レスリー・ハワード/ハンフリー・ボガード

鏡の中にあるごとく

 「化石の森」とは砂漠にある地名。そこにレストラン兼ガソリンスタンド「バーベキュー」がある。酒場の主人と娘のガブリエル(ベティ・デイビス)と祖父の三人が店をやり、従業員の若者がいて彼はガブリエルに気がある。ヨーロッパから流れてきた食い詰めた作家アラン(レスリー・ハワード)が店に入ってきた。彼は妻に逃げられ、30セントの昼食代も払えない。詩集を手放さない文学少女(といっても20歳だが)のガブリエルはアランが作家だと知ってがぜん関心が高まる▼行き場のない作家アランは明るく振舞っているが、その明るさは奇妙な明るさだ。ガブリエルの無邪気といっていい希望にあふれた明るさとは対照的だ。生と隣り合わせになっている死が、生の照り返しを受けて明るくみえるみたいである。殺人犯マンティ(ハンフリー・ボガード)の一味が逃走中というニュースが入り、自警団の一員である父親は近隣の警備に。無法者に殺されそこねた昔話の好きな祖父は、マンティ一味が店に来るかも知れないとむしろそわそわ期待する。高利貸夫婦が店に立ち寄り、ガソリンを補給して出ていく。一文無しのアランを同乗させてやってくれとガブリエルが頼む。デイビスが信じられないほど初々しい▼運転してほどなく車はマンティ一味に乗っ取られる。マンティはガブリエルの店にやってくる、店は情婦との待ち合わせの場所らしい。車を奪われた高利貸夫婦とアランは仕方なく徒歩で店にもどる。「化石の森」の顔ぶれは砂漠の食堂にすべて揃ったわけである。アランが言う「ここは自分の人生を語りたくなる不思議な場所だ」その口調にはどこかさびしげな、懐かしげな響きがある。マンティら一味は総勢4人。女は来ない。しだいにマンティのいらだちが高じる。バーベキューに集まった面々の顔に好奇心と詮索がいりまじる▼マンティは殺人犯のあらくれ男だが、いじわるでもなければ弱いものいじめもしない。祖父はマンティが気にいる。妻に逃げられたアランも、マンティに同情と共感を覚える。世間のどこにも自分を受け入れてくれる場所がない、という身の上は二人に共通なのだ。マンティが女に裏切られたことがわかると、アランは復讐などやめ、もうすぐ自警団と警官がくるはずだからすぐ国境めざして逃げろと助言する。高利貸の女房は自分も連れて逃げてくれとマンティに頼む。ガブリエルはアランを愛しているといい、アランは生命保険の受取人をガブリエルに書き換える。化石の森は愛の告白と逃避行のスクランブルを呈する▼監禁するマンティと人質のアランやガブリエルらとの間に、ストックホルム症候群(犯罪被害者が犯人と一時的に時間・場所を共有することによって好意や同情を持つこと)が生じる。警察がやってきて銃撃戦。それにまきこまれてアランは死ぬ。砂漠の真ん中の砂塵が舞い、砂嵐が吹く居酒屋という設定がそもそもドラマチックだ。そこへいわくつきの男たちが集まる。ボガードとレスリー・ハワードは舞台で共演したままの役で映画に出演した。売れない役者のボガードは37歳。役者として先がなく引退寸前だった。売れっ子だったハワードはなぜかボガードと相性がよかったのだろう、あいつといっしょでなければ映画のオファは受けないと突っぱね、ボガードの出演が決まった。ボガードはこれをきっかけにしてハードボイルドで売り出す。ハワードへの恩義を忘れず、のちローレン・バコールとの間に生まれた娘をレスリー・ハワード・ボガードと名付けた▼デイビスは可愛いだけか。珍しくそうなのだ。2年前「痴人の愛」でレスリー・ハワードを振り回したあと再びコンビを組み、生きる情熱を見いだせない青年作家を愛する田舎娘を好演する。こんな線の細い青年をやらせたらレスリー・ハワードって特級ものだ。面白いことに「化石の森」が1936年、翌年デイビスは少なくとも4本の映画に出演する。このうち2本がボガードとの共演なのだ。「倒れるまで」「札付き女」という、タイトルからして、いかにものるかそるかの男や女を連想させる。二枚目にもロマンスにも、ましてメロドラマにも肌の合わぬボガードのキャラをデイビスはその目で見ていた。乾いた女と乾いた男。後年の悪女とハードボイルドを代表することになる二人は、それまでのスクリーンになかったお互いの存在感を、鏡のなかにみるごとくみてとったにちがいない。