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特集「ディーバ(大女優)」

2012年6月4日

特集 ディーバ(大女優) 悪女の元祖 ベティ・デイビス 月光の女 (1940年 心理劇映画)

監督 ウィリアム・ワイラー
出演 ベティ・デイビス/ハーバート・マーシャル/ジェームス・スティーブンソン/ゲイル・ソンダーガード

「女優の顔」 

 原作はサマセット・モームの短編「手紙」。72年前の映画だ。映画もこれくらい古くなると、余計なものがきれいさっぱり洗い流されエッセンスのようなもの、骨格のようなものというか、残るべきものが残るものだ。なんで「月光の女」というタイトルになったのかわからないが、ともかく映画は黒い雲の切れ目から鋭く差し込む月光のもとで始まる。いきなり銃声である。このへんの演出は鋭い。ウィリアム・ワイラーは38歳、ヒロインのベティ・デイビスは32歳。2年前「黒蘭の女」でワイラーと組みオスカー主演女優賞を射止めたばかりだった▼ワイラーは後年「ベン・ハー」で空前の大ヒットをとばすが、初期の映画作りは「月光の女」でもわかるように、ディテールを一片一片ていねいに組み立てていく、どちらかというと「探偵物語」にみられるような室内劇と心理劇が得意な地味な作風だった。彼はドイツ帝国と呼ばれた時代のアルザス出身。母親の縁を頼って渡米、ニューヨークのユニバーサル・スタジオで雑用係として雇われたのが18歳。ハリウッドに移り雑用、小道具係、配役係、助監督とコツコツ映画製作の現場で経験を積む。23歳で監督に昇進、短編の西部劇を撮った▼現場のたたきあげである。言葉にも不自由した。大学で演劇を学び、演劇学校で芝居や監督術を勉強し、裕福な親の金で好きな道に入ったエエ氏の息子でもなかったし、映画界の上層部と特別なコネがあったわけではないのに、映画会社の幹部が母親の縁につながるというだけで白い目でみられたのだから、この業界も一歩中にはいれば塵芥の溜まり場なのだ。ともあれワイラー青年は34歳のとき「孔雀夫人」でオスカー作品・監督賞にノミネート、おしもおされぬユニバーサルの主要監督となった。だから「月光の女」は大げさにいうなら、昇竜のような勢いの監督と女優が、ガップリ四つに組んだ映画なのである▼ワイラーはくどくどした説明をいっさいせず、ヒロイン・レスリーが銃で男を撃ち殺した、夫ロバート(ハーバート・マーシャル)とその友人の弁護士ハワードがかけつけた、レスリーはハモンドという男が言い寄ったので護身用の銃を発射、気がついたら男は倒れていた、というふうにたたみこむ。いったいどうなっているのだと観客は、オープニング早々ワイラーの巧みな仕掛けにはまる。とにかくベティ・デイビスの主演だ、きっとなにかあるのだと、観客席では勝手に勘ぐり始めるが、劇の進行は余裕たっぷり、役者たちはあわてず騒がず演技を開陳する。小憎らしいほど冷静な手際だ▼弁護士のハワードは裁判で苦もなく無罪をとれると判断、なにも心配していなかったところへ、彼の助手オン・チャイが耳打ちにくる。事件の当日レスリーがハモンドに出した手紙がある、これがその写しだと差し出す。内容はレスリーの無罪をくつがえす有力な証拠になるものだった。オンは手紙の持ち主ハモンドの妻(ゲイル・ソンダーガード)が、1万ドルで手紙を売るともちかける。弁護士は夫のロバートに深い内容は話さず、たいした手紙ではないが表沙汰になれば裁判で不利になることもありうる、と言って買い戻しの金を調達する▼条件はレスリーが自分で金をもっていくこと。さてここでベティ・デイビスとこれまたオスカー女優ソンダーガードの対決となるのだが、脂汗がじっとりするようなソンダーガードのいやらしさを、ワイラーはコテンコテンのクローズアップで映す。レスリーが「コブラみたい」と称した、またたきをしない意地悪な目でベティ・デイビスをみくだす。そうそう、手紙の内容だった。あなたに会いたい、あえなければわたしはどうかなってしまいそう、という熱烈ラブレターで男を追いかけていたのはレスリーの方だったのだ。そらバレたら負けるわね▼手紙を取り戻し裁判は無罪判決。ここからまた一山あるのだからワイラー監督の粘着質は相当なものだ。でもそれを95分におさめてしまったのだからね。レスリーは寛大な夫ロバートの胸にもどるかというと「いいえわたしはハモンドを愛している」と口走る。観客は飛び上がる「この期に及んでなにをいうネン」そこへハモンドの妻がしのびこみ、鋭利なナイフでレスリーを一刺し。1万ドルとって満足するどころか、どっこい復讐は終わっていないというのがコブラ女なのだ。レスリーは月光の下で息絶えます。殺さなくてもいいだろ。ともあれ「黒蘭の女」から「月光の女」、つぎは「偽りの花園」とベティは、ふてぶてしく、傲慢で頭がよく、しかも感性豊かなワルの顔、ハリウッドにまだだれもいなかった「女優の顔」を着々つくりあげていきます。