女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

特集「ディーバ(大女優)」

2012年6月10日

特集 ディーバ(大女優) 悪女の元祖 ベティ・デイビス 妖婆の家 (1965年 サスペンス映画)

Pocket
LINEで送る

監督 セス・ホスト
出演 ベティ・デイビス/ウェンディ・クレイグ

デイビスが立っている

 今年のオスカー主演女優賞に輝いたメリル・ストリープは、いうまでもなく米国を代表するスターの一人だが、40歳のときにオファがきた脚本はみな魔女の役だったと苦笑しながらインタビューに答えていた。ベティ・デイビスが「妖婆の家」に出演したのは今から47年前57歳のときだ。女の年齢というものをこの時代の世間がどうみなしていたか、いうまでもないだろう。原題の「乳母」を「妖婆の家」としたセンスが、社会的な感覚を代弁している▼デイビスの1950年代は「イヴの総て」で絶賛を博したあと、日本で封切られた映画が少ない。数こそ出演しているが破竹の進撃だった30代の勢いは鳴りを潜め、これこそデイビスという決定打はなかった。転機は50代に入ってから訪れた。「ポケット一杯の幸せ」のあと毒食らわば皿まで「何がジェーンに起こったか」でデイビスは大化けした。悪女を通り越してもはやモンスターである、そう呼ぶしかない女に化けてしまった。「妖婆の家」の「ベティ・デイビス」は「フランケンシュタイン」とか「ゴジラ」とか「ドラキュラ」とか、その名前だけで通じるカリスマに化している▼ホスト監督は古いイギリスの習慣にもとづいた乳母(子守だけでなくこどもたちのしつけもする家庭の教育係)であるデイビスが、黒い制服のような地味な服と黒い帽子をかぶり、脇見もせず一直線に道を歩いているところから映す。動じない視線はチラリとよそ見もしない。カッカッカッと靴音がひびいてきそうだ。デイビスは劇中「ばあや」とだけよばれる、ろくに名前もない役である。デイビスは一軒の家に入る。そこが彼女の住み込みの勤務先だ▼台所に行き、ケーキの包みをあける「お帰りジョーイ」と飾り文字が入っている。2年間施設に入っていた10歳の一人息子が帰ってくるのだ。彼を迎える父と母がもめている。母親はジョーイに会うのが怖いといい、外交官である父親は激しく泣く妻に手をやく。母親はデイビスに代わりにいってくれという。このあたりから目が放せなくなる。話の因果関係はさっぱりわからないが、無表情なデイビスがそれは、それは、やさしく奥様をいたわり、わたしが行ってまいりますとしっかり受け止める。奥様はデイビスにオールお任せの感じである▼息子のジョーイは施設のなかでも札付きの問題児で、ジョーイが家に帰ることになって校長らは胸をなでおろしている。なにが問題なのか、それがだんだん明らかになるのだが、その第一段階はジョーイが年配の女性を毛嫌いすること。つまりジョーイとデイビスの暗闘がこの映画の基調にある。これが子供のすることかと思う、悪意に満ちた画策でジョーイはデイビスに憎しみをぶつける。なぜそこまで憎むのか観客はわからないが、眉ひとつ動かさず優秀な乳母を演じるデイビスが、ちょっと怖くなる▼そうだ、冒頭にあった家族の写真は女の子だった。ジョーイには妹がいたのに、その子はなぜ姿を現さないのだろう、と思えてくる。ジョーイのデイビスに対する悪意と侮蔑は、じつは自分の身を守るための防御策だとわかってくる。彼はデイビスに殺されると信じているのだ。ここまでくるとさて、デイビスの乳母からモンスターへの変身はあと一歩である。犠牲は母親とその妹、つまりジョーイの叔母にも及ぶ。妹はなにかデイビスの過去に思い当たることがあるらしい。姉ほどデイビスを信頼していないことをデイビスもわかっている▼ハワード・ホークス監督がキャサリン・ヘップバーンについてこんなことを言っていた。キャサリンとデイビスは一歳違い、キャサリンが一つ上だ。キャサリンが「勝利の朝」でオスカーをとった翌年デイビスは「痴人の愛」で脚光を浴びた。ライバルである。ついでにいうとアメリカ映画協会が選んだ「偉大な女優50人」の1位がキャサリン、2位がデイビスだ。そのキャサリンをホークスは「ケイトの問題は面白くしてしまうことだった。面白くやらないようにすれば面白いのだ、そうアドバイスしたら彼女はただセリフをいえばよい、その演じ方がわかったようだ」ホークスは演技力のかたまりみたいなキャサリンだからこそできる、なにもしないことが最高の演技になる究極の「脱力」を教えた▼この式でいくと「妖婆の家」のデイビスは何もせず「ただ立っていればよい」をやってのけた。ドアの外にデイビスがいる。影のように立っている。それだけで観客は、セリフも背景もなんの条件設定もないのにドラマのオーラを感得する。

Pocket
LINEで送る