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特集「ディーバ(大女優)」

2012年6月11日

特集 ディーバ(大女優) 悪女の元祖 ベティ・デイビス 残酷な記念日 (1968年 ブラック・コメディ映画)

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監督 ロイ・ウォード・ベイカー
出演 ベティ・デイビス・以下文中に含む

ベティ・デイビスの瞳 

 優れた作品というのは、あなたを決して徳の高い人間のようには思わせないものだと、ポーリン・ケイルが「今夜も映画で眠れない」で書いていたが、おそらく「残酷な記念日」をみたらだれもがそれを実感する。壮大な毒舌バトルに笑いながら、人間の悪意、中傷、軽蔑、奸智、欺瞞、嫉妬、強欲、ジコチューのすべてが自分の中にも含まれてあることに思い当たるにちがいない▼天下一品の性格の悪さにもかかわらず、大脳機能から後悔と反省を削除して生まれてきた女・タガート夫人(ベティ・デイビス)は安普請の一戸建家屋販売会社の社長。亡き夫から社業を引き継ぎ増収増益の快進撃を続ける。息子が三人。長男ヘンリー(ジェームス・コシンズ)、次男テリー(ジャック・ヘドレー)、三男トム(クリスチャン・ロバーツ)がいる。タガート家には伝統があった。両親の結婚記念日に家族が実家に集まり、父親の遺影の前で記念のパーティーを開くのだ。映画「残酷な記念日」とは一同が介した一日の出来事の一部始終である▼三人の息子たちは異様な強権を持つ母親の支配下にある。長男は抑圧の反動で下着ドロに。盗んできた下着で肥った体を装飾する。次男は結婚し嫁のカレンとの間に4人の子供がいて5人目を妊娠中だという。嫁カレンは母親のいいなりになる夫へのはがゆさと、姑への憎悪で凝り固まっている。三男はフィアンセのシャーリー(エレン・テイラー)を連れてきたが、結婚のことはまだ母親に言いだせない。過去3人のガールフレンドは母親に紹介したとたん恐怖と驚愕のもとに去った。息子が愛する女への母親の嫉妬かというと、そういう生やさしいものではなさそうだ。タガート夫人とは…そうですね「妖婆の家」の乳母が静かなる陰の悪女だとしたら、タガート夫人は明るい陽の中を「歩く犯罪一歩手前」である▼タガート夫人は隻眼である。なぜ隻眼かはおいおい明らかになる。映画のオープニングから10分ほどして、息子家族らが屋敷に勢ぞろいする。ワルツ「ドナウ河のさざなみ」にのってピンクのドレスと、ドレスと対のアイパッチをつけ、クルクルと蝶のように舞いながらデイビスが階段を降りてくる。次男夫婦は自分たちを意のままにあやつる母親から逃れようと、カナダ移住を決意したが言い出せない。自分のことをフィアンセだとなかなか紹介しない三男を、シャーリーは不審と疑惑で責め立てる。彼はすぐえらそうなことをいう皮肉屋だが、堂々とした振る舞いはひとつもない。母親の前で胸を張る息子が一人もいないのだ▼三人三様の弱みをすべて母親に見ぬかれている。おさまらないのは嫁と婚約者で、シャーリーは果敢に反撃を開始する。残っているもうひとつの目をくり抜いてやるわ、とまで吠えたてるがタガート夫人は「…」優雅な微笑みを返すのみ。カナダ移住を次男が切り出すと、次男に内緒で子ども一人生まれるたび1000ポンドの大金を育児費用として嫁にあげていたことをばらす。嫁によるとその育児支援は心臓の弱い自分にたびたび妊娠させ、出産及び心臓発作による死亡のリスクを高める姑の戦略だと指摘する。しかし今回の5人目はウソだ、妊娠していないのだ、まんまと金だけせしめてやったと嫁は快哉を叫び、タガート夫人はなにか考えこむふうに沈思する▼隻眼になったのは子供のころのテリーが空気銃を暴発させたからで、それ以来テリーは母親が自分を愛していないと思い込んでいる。まったくのところこの母親はだれかを愛しているのだろうか。彼女が愛するのは息子でなく、息子を支配する喜びであろう。それはともかく、息子と嫁連合を相手に火花を散らしたバトルの結果、長男をのぞく息子たちが「二度と戻らない」とタンカをきって出奔する。車で飛び出し「母さんのいないところで第二の人生を踏み出すのだ、新しい生活が始まるのだ」と興奮して声高らかに誓いあう、いい年をした二組の夫婦はなぜか滑稽だ▼静かになった自宅の居間。タガート夫人は電話で弁護士を起こし、カナダへの不法入国と5000ポンドの借金の取り立て、自社に勤める息子たちの解雇通告を命じる。母親にオンブにダッコだった息子たちに、独立してやっていける能力があるかどうかは「ケッ」母親がいちばんよく知っている。長男は下着ドロがばれそうになるたび母親が丸くおさめてやった。ヘンリーが「母さんおやすみ。風呂に入って寝るよ」タガート夫人は「おやすみ」やさしく返し、ちょっと考え「フランスの画家で肥った女が風呂に入っている絵を描いたのはだれだったかしら」人のいいヘンリーは「さあ。それがなにか」「なんでもないわ」(ニッコリ)このおっかさん、どこまで憎まれ屋なのだろう。肥った女とは女装した自分への当てこすりだとヘンリーは気がつかない▼「妖婆の家」で、そこに「立っているだけ」で演技をしたデイビスは「残酷な記念日」ではスクリーンに「現れるだけ」で演技になることをやってみせた。俳優たちはみな力演だがデイビスの存在感の比ではないのだ。隻眼のデイビスの目は青くきれいに、大きく見開いたかと思うと鋭くすぼまり、豹のように花のように変化する。キム・カーンズが歌う「ベティ・デイビスの瞳」が発売されたとき、現役だったデイビスはとても喜んだ。「ジーン・ハーロウのような金髪、唇は甘く、彼女の手はいつも暖かで、瞳はベティ・デイビス。彼女の瞳はベティ・デイビス、あなたを錐揉み状態に、青ざめるまでサイコロのように転がす…」男を誘惑しふりまわしケロリとしてサヨナラ、そのくせ心あたたかでピュアな女。この歌は80万枚の大ヒットとなった。青い美しいデイビスの瞳は「残酷な記念日」が最後といっていい。このあと「ナイル殺人事件」にも出演した、「家」にも出演した、しかし(「八月の鯨」はあるが)デイビスがデイビスらしい力で圧倒した「ベティ・デイビスの瞳」はこれが最高だった。

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