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シネマ365日

2012年6月16日

ボルベール <帰郷> (2006年 家族映画)

監督 ペドロ・アルモドバル
主演 文中に含む

愛への「帰郷」

 女たちがやさしく、たくましい。冒頭のシーンはスペインのカラフルな原色の風景のもと、ここはラ・マンチャ。大勢の女たちだけが…これは何というスペインの行事なのだろう、墓地清掃祭り、とでもいうようなにぎやかさで、いっせいにお墓をきれいにしているのだ。東風の強い村にはライムンダ(ペネロペ・クルス)と娘パウラ(ヨアナ・コボ)とソーレ(ロラ・ドエニヤス、ライムンダの姉、マドリッドで隠れ美容師をやっている)三人が叔母を見舞う。叔母(チュス・ランプレアベ)は足腰が弱り目も不自由で認知症もまじっている。でも2階にはペダルこぎ運動器があり、ウエハースをつくって姉妹の訪問を待っているのだ。このあたりから観客は「アルモバドルからくり屋敷」に足を踏み入れることになる▼ライムンダは失業中の夫に代わり、空港の掃除、調理、身を粉にして働く主婦だ。彼女の留守中夫が娘を犯そうとし、娘は過って父を殺してしまった。ライムンダは娘を守ろうと事件の隠蔽を図る。ラ・マンチャの叔母が死んだとソーレが知らせてくる。葬儀に行かねばならぬが死体の始末でライムンダはそれどころではない。一人で参列したソーレは、叔母の向かいに住むアグスティーナ(ブランカ・ポルティーニョ)から、4年前に死んだはずの姉妹の母が、亡霊になって現れるという話を聞く▼ガンで長くない命であると知ったアグスティーナは行方不明の母親の存否だけを知りたい、その手がかりは、あなたたちの亡くなったお母さんが知っているはずだと、ライムンダに打ち明けるが、姉妹ともなんのことかわからない。アグスティーナは母親が失踪したのが4年前の火事の直後、姉妹の母親はその火事で焼死した、符号が合いすぎるというのだ▼アルモバドルに首筋をつかまれ、観客は物語にひきずりこまれていく。なんだ、なんだと右顧左眄するうちとうとう亡霊が帰郷する。母イレーネ(カルメン・マウラ)は生きていたのだ。いきなり現れた母にソーレは呆然自失するが、誰よりも先に正気にもどったのは「おばあちゃん」大好きの孫のパウラだった。イレーネは密かに2階に住み死期の近い姉の世話をしていたのだ。亡霊の正体はむろん本身のイレーネである。ライムンダは娘のころから母親に冷たく打ち解けようとしなかった。しかしイレーネは死んだ姉から真相を聞き出していた。ライムンダは自分の秘密を母親に知らせないことで、母親を傷つけるまいとしていたのだ▼ライムンダが歌うタンゴの名曲「帰郷」を隠れてききながらイレーネはむせび泣く。このあたりの演出は腹がたつくらいうまい。アルモバドルの浪花節の聞かせどころ、いや、みせどころであろう。ペネロペは意地っ張りで働き者の、母性に富むスペイン女をきりきりと演じ小気味よい。それとアルモバドルの裏技というか、芸の細かいところは、テレビで放映中のドラマが「ベリッシマ」(美少女)なのだ。主演はアンナ・マニャーニ。監督はルキノ・ヴィスコンティ。娘を大女優にするため全力を尽くすステージママの奮闘と絶望と家族愛の映画ではないですか、これは▼アルモバドルは「帰郷」にいろんな意味をこめたのかもしれません。母親への帰郷、家族へ帰郷、いつかくる死をみつめ今を、せいいっぱい生きる愛への帰郷。ふるさとへの帰郷(ラ・マンチャはアルモバドルの故郷です)さまざまな意味があるでしょうが、それが女ばかりで演じられているのが見事というか、さすがというか、アルモバドルの「女性三部作」の最終を飾る傑作でした。