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シネマ365日

2012年7月13日

ゲット・ショーティー (1995年 コメディ映画)

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監督 バリー・ソネンフェルド
出演 ジョン・トラボルタ/ジーン・ハックマン/レネ・ルッソ/ベッド・ミドラー/ダニー・デヴィート

トラ「黒い罠」で泣く

 けっこう入り組んでいるのです、この映画の筋書き。詳しく説明しだすとかえって混線するから、あらましこういうふうにします。主人公チリ(ジョン・トラボルタ)は売掛金回収業、つまり取り立て屋で無類の映画好き。「セルピコ」でアル・パチーノが着ていたのと同じコートを愛用するくらい。売れない映画監督ハリー(ジーン・ハックマン)が同棲中の、女優カレン(レネ・ルッソ)の家にチリは取り立てのため深夜無断侵入、しかし映画のプロットをしゃべるうち2人は意気投合する▼チリは自分を仇のように狙っている組織の男たちとやりあいながら、いつか大好きな映画をつくろうと思う。カレンはデートの場所を映画館に指定したチリが、上映中の「黒い罠」をみながらオーソン・ウェルズやチャールトン・ヘストンのセリフを暗唱するのをきいて、チリの映画好きが本物だと確信する。最初は取り立て屋のケチなやくざだと警戒していたカレンだが、チリがあくどい手段に決してうったえない、紳士的な男だとわかり心を開き、元夫である映画監督のマーティンにひきあわせる▼このマーティンがダニー・デヴィートだ。身長156センチ。長年映画界で活躍する多彩な人物だ。プロデューサーとしては「ゲット・ショーティー」のほか「エリン・ブロコビッチ」「ガタカ」「パルプ・フィクション」のヒット作を、監督としては「ローズ家の戦争」や「マチルダ」を、出演した映画のなかには「バットマン・リターンズ」の悪役ペンギンがある▼さて映画の中では麻薬取締や殺人や脚本の書き換えやタイトルの改題や、ギャング同士が殺したり殺されたり、悪趣味一歩手前のドタバタがあり、来日していない大物アーティスト、ベッド・ミドラー(フォーエヴァー・フレンズ)が顔を出したり、いきなりハーベイ・カイテルがカメオ出演したかと思えば、金を受け取りにきたギャングが麻薬取締官に包囲され、拳銃をかまえた瞬間マーティン監督の「カーット」の声がスタジオに響く。ここは「ゲット・ショーティー」の撮影現場、関係者一同うちそろい、チリは念願の映画製作が実現して上機嫌で笑をうかべている、というのがオチだ▼真面目とおふざけがハイレベルで融合するシチュエーションをこしらえたのがバリー・ソネンフェルド監督だ。彼のデビュー作が「アダムス・ファミリー」(1991年)と知れば、まあムリないな、と思えるでしょう。当時最新のCG、早回しを多用し、箱から飛び出して走りまわるハンド、アダムス一家のアクロバット、屋敷とその内部、墓場のラブシーン、地下の大空間、舞踏会などすべてがゴシックコミック。真剣にふざける映画の見本みたいなものをつくったのが38歳のとき。制作費3000万ドルに対し興行収入は1億9150万ドルの大ヒットとなり、以後かれの「真剣おふざけ精神」は年とともにいやます。アダムス・ファミリー「2」「ワイルド・ワイルド・ウェスト」着想の奇抜さでアッといわせた「メン・イン・ブラック」。2012年「メン・イン」の「3」があります。こうみてくると「ゲット・ショーティー」は彼がもっとも得意とするジャンルの延長線上にあったことがわかります▼しかしそれだけではありません。一時は引退同然の不遇をかこってきたトラボルタが「黒い罠」をみるシーンは印象的です。オーソン・ウェルズの監督主演、出演はチャールズ・ヘストンのほかデニス・ウィバー、マレーネ・ディートリッヒ。映画の申し子ともいうべき布陣でした。1958年製作の古い映画で、公開されたときは不評ふんぷんだった「黒い罠」は、いまやカルト的評価を得ています。映画界はスターシステムの崩壊後、独立系プロダクションの製作が主流となり、それとともに1980年代からネオ俳優主義とよばれる潮流があります。マネーメーキングに走らず出たい映画を選ぶ俳優たちが増えたということですが、さあどうでしょう。オーソン・ウェルズは借金を返すため撮りたくもない映画を撮った、それが「黒い罠」だとトラボルタは劇中でいうのですが、本音はどこにあったのでしょう。たとえやけくそでもこんないい映画を撮るのがプロだといいたいのか、それとも金のためだけの仕事なんてするべきではないといいたいのか…関係ないだろ、観客はそんなことはどうでもよく映画という夢の世界に価値を見出す。ソネンフェルド監督の意図は案外そんな素朴な「くくり」だったかもしれません。

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