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シネマ365日

2012年7月19日

ルイーサ (2010年 ヒューマン映画)

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監督 ゴンサロ・カルサーダ
出演 レオノール・マンソ/マルロス・セレ/ジャン・ピエール・レケラス

我々の隣のヒロイン

 舞台はアルゼンチンの首都ブエノスアイレス。主人公ルイーサ(レオノール・マンソ)は60歳。30年間「安らぎ霊園」という職場に勤め、副業として20年間女優の家政婦をやる。毎日決まった通勤路をバスで通い、職場に入り、電話番と受付をする。昼は自分の席でつましい弁当を食べる。アパートに愛猫ティコと暮らす。ルイーサが安らぎ霊園のリストラにあい、女優が別荘に移るとなって、二つの職を同時に失ったのは、偶然ティコが死んだ日だ。退職金もなし、貯金もなし。手元の現金は20ペソ(5ドルくらいか)。ティコの火葬料は300ペソ。どうしよう。ティコを埋葬できないルイーサは、ぐるぐる布で巻いてなんと、冷蔵庫の冷凍で保存するのだ▼仕事を探しにルイーサは町に出る。30年間通勤のバスしか知らなかった彼女が初めて地下鉄の雑踏に身をおいた。本作の隠れた主人公はじつは「地下鉄」なのである。ブエノスアイレスの地下鉄会社が公募した「地下鉄を舞台にした脚本コンクール」大賞を受賞したのが「ルイーサ」なのだ。車内での光景にルイーサは目を見張る(日本人でもびっくりする)。「僕はエイズで治療中、家族は6人で僕の治療費どころではない貧乏家族、哀れな僕にお金をください。今からカードを配ります。1ペソです」早速ルイーサは中国人の店で幸運のカードを買い、地下鉄販売をやるが青年のようにすらすらセリフも出てこず乗客は知らんふり▼お金はなくなってくる。家賃も電気代も未払いだ。電気を止められた。ルイーサは階下の大家のホセ(マルセロ・セレ)一家の冷凍庫に、ブランドものの豚肉だから大切に保存してくれといってティコの包みを預ける。ホセはルイーサのよき理解者だが、最近の彼女の行動には不審が多い。首をひねりながら、でも口やかましい女房には黙って口裏をあわせてやっている。地下鉄の車内販売に失敗したルイーサは、プラットホームの片隅で物乞いする視覚障害の老人オラシオ(ジャン・ピエール・レゲラス)に目をつける。「家族が7人、あわれな老人だ、お前ら、金のあるやつはおれに金を置いていけ」日本では考えられない要求力である。しかも通る人が小銭を空き缶にいれていく。それをみていたルイーサはさっそく松葉杖を買い、サングラスをつけ地下鉄のホームにすわるが、たちまちオラシオとケンカになる▼しかしどちらも似た境遇だ。ケンカはよそう、役割分担を決め、稼いだ金は山分けとする。身の上話もちらほらするうちオラシオとの間に友情というか、連帯感というか…たぶん不慮の事故だったのだろう、突然夫と娘を失い、ひとりぼっちの世界で自分を開放することのなかったルイーサに「地下鉄の世界」が現れたのだ。ホセはホセで、ルイーサの電気代の滞納分をこれまた女房に内緒でたてかえてやる▼オラシオはルイーサのためにひと肌ぬぐ。安らぎ霊園に電話し、電話口にでた若い受付嬢(そもそも彼女がルイーサのリストラの原因だった)に対応のまずさを指摘し、ルイーサを出せといい、やめたときくと、お前とこの社長のばかな人事方針で迷惑をかけられた、訴えてやると脅す。このごろティコの姿をみかけないといぶかっていたホセは、とうとう冷凍庫の包みをあけてしまい、仰天してルイーサをといつめる。火葬にしてやりたいがお金がないのだと嘆くルイーサに、ホセはあることを思いつく。目下留守中の女優の家に無断で忍び込み、屋上にある大型ごみ焼却炉を使おうというのだ。オラシオも賛成し、にわか葬儀場でティコの火葬が無事行われた▼南米随一の大都会ブエノスアイレスの街が映画のなかで呼吸している。中心街にあるオベリスコの尖塔。ヨーロッパの雰囲気を濃密にただよわせる風格ある都市づくり。と思うと貧しい人々で混雑する地下鉄に安アパートが並ぶ。酒場のそまつな料理。わずか2日か3日の物語のなかにルイーサの60年の人生、失った夫と娘とティコと30年の職場、失って得たオラシオとホセの友情。明日食べるものもなく、笑顔もなかった極貧のルイーサが、オラシオとつきあううち表情がなごみ、ホセ一家と行き来するうち、だんだん世間話をするようになる。地下鉄の仕事をコンビでやって、金をためたら、いい弁護士をみつけようというオラシオの助言で、ルイーサのリベンジは始まるかもしれない。美人もハンサムも金持ちも、戦争もエイリアンも、アクションもスリルもサスペンスもない映画のエンドが、わたしたちの隣にいるヒロインとヒーローに気づかせてくれる。

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