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シネマ365日

2012年7月20日

それでも、愛してる (2009年 家族映画)

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監督 ジョディ・フォスター
出演 メル・ギブソン/ジョディ・フォスター

もうひとりの自分

 ウォルター(メル・ギブソン)は玩具会社の2代目社長。結婚20年、妻のメレディス(ジョディ・フォスター)はエンジニアで、息子は7歳のヘンリーと17歳のポーター。プールつきの邸宅に住むなに不自由ない暮らしだった。いきなりウォルターがウツになる。カウンセリングもクスリも音楽療法も、催眠療法もありとあらゆる手を尽くしたが効果はなく、ただ酒を飲んで眠り続ける毎日。家のなかは陰気になり妻は仕事に逃避し、下の息子は学校でいじめにあい、長男は父親に似ている自分を否定しようと、壁に頭をぶつける▼家庭崩壊寸前の状態を、スタートから数分で手際よくまとめたフォスター監督、ジワッと本題に入っていきます。ウォルターは別居することになった。車のトランクに酒とガラクタを積んでホテルにきた。首を吊ろうとしたがカーテンレールが折れて失敗。飛び降りようとしたところ「オイ」と声がした。ダンボールに押し込んできたパペットのビーバーがウォルターを見つめている。もちろんウォルターの自作自演だ。重症のウツの閉塞感に出口を見いだせなかったウォルターは、救われたように夢中でビーバーに話しかける。翌日、人が変わったように快活になって帰ってきた夫に妻は不審をだくが、父親が戻ってきて末っ子は大喜び。いっしょに木工などして遊び、家に明るさが蘇ったのだから「まあ、いいか」と妻は一瞬の不安に目をつぶる。しかし思春期の長男は心を閉ざしたまま。冷たい目で父親をみることをやめない。この調子ではなにかよくないことが起こりそうだ。かすかなサスペンスを観客は感じます▼会社では夫の企画が大ヒット。新婚夫婦のように仲良くなった妻と夫は情熱を交換するが…ベッドでも夫が左手にビーバーをはめていることに違和感があったが、とにかく夢中のときは気にならなかった。しかしある夜妻はギョッとする。充足して軽いあえぎを発している夫の左手で、ビーバーが同じようにあえいでいるのだ。何なのこれ。ゆっくり口パクしているビーバーのクローズアップが不気味だ。考えてみれば夫とビーバーの一心同体は異常だ。高級レストランで祝う結婚20周年に「今夜だけそれはぬきにして」と妻は頼む▼こわばっている夫をときほぐすように、妻は子供が生まれたころの夫婦の思い出にふれた。夫は過呼吸に陥り発作的にビーバーを取り出すと、ビーバーはせきをきったようにしゃべりだした「こいつがこうなった原因は過去なのだよ。それを思いだせ? そんなことをするのは首を吊ってほしいからか」一方的に妻を責め立て、絶望した妻は子供をつれて家を出る。夫は過去になにか知らないけど鬱屈があって「いい夫」をやっているうちに吐き出せなくなったのでしょうね。今やビーバーが自分の代わりにいいたいことを言ってくれる。人格を代替してくれる存在に夫はのめりこんでいきます。テレビのトーク番組に出演する有名人になった夫は「自分を追い詰めた人間とは離れるのがいい。愛しているフリをしている妻、自分を嫌う息子なんかとね。彼らもラクになる」とまで放言する▼2代目社長で苦労知らずの人のいい夫と、ビーバーは真逆の性格。それはそうね。自分と正反対の性格を取り入れることで夫は希求する別人格を得たのですから。そういう「変換」をメル・ギブソンは傲慢で自信にあふれ、ためらいのないビーバーの喋り方で現します。このビーバーはしかし「おれがいなきゃ、お前は生きられないだろ。お前に家族はいらない。お前を愛しているのはオレだけだ。だからお前を家族のもとに戻せない」とまあ、すっかり暴君となり心を独占しようとします。夫は残る意識でこの暴君と縁を切ろうとしますが、どっこい引っ込んでくれない。ついに彼は右手にチェーンソーを、そしてスイッチを入れた▼一言でいえば家族愛の回復ですが、特色はビーバーという仇役でしょう。ビーバーとは、だれにでも心のどこかに隠している「もうひとりの自分」です。たとえば「もうひとりの自分」に徹底的に他人を攻撃させることで自分を守ろうとする。あるいは自分を強くみせようとする。でも結局ビーバーは破滅しちゃったのだけど。本当に強い人は自分の悪も人の悪も受け入れていくのだよね、きっと。

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