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シネマ365日

2012年7月29日

バベットの晩餐会 (1987年 ハートフル映画)

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監督 ガブリエル・アクセル
出演 ステファヌ・オードラン

料理の力

 なにから書き始めるか迷うほど、中身がギッシリある。デンマークの寒村にバベットのいう正体不明の中年の女性が現れる。そこに至るまでに、かなりの物語があり、これがまた丁寧に語られる。アクセル監督は「バベットの晩餐会」を撮ったとき69歳、いま93歳のベテラン中のベテランだ。急かず慌てず、故郷デンマークの灰色の空気と海から映し始める。そこは土壁の低い、粗末な木のドアのついた家屋が思いついたように建っている村だ。牧師を父に持った姉妹がいる。父の教えを守り敬虔な宗教活動に明け暮れてきた。美しい姉妹を目当てにやってくる青年たちで教会は賑わった。ある日うらぶれた僻村に、フランスからやってきた青年将校と詩人が姉妹を見初めたが、姉妹とも結婚する気にならなかった▼父牧師は亡くなり、姉妹は寝たきりの、あるいは体の不自由な村人に食事を届け、話し相手になる。天使のような姉妹であるが、悲しいかな、信者たちは信仰心が衰えてきていた。そこへ元カレだった詩人の推薦状をもったバベット(ステファヌ・オードラン)がパリの内乱で、家族も家も失い亡命してきた。手紙には「彼女は料理の名人です」とあった。貧しい姉妹のもとでバベットは家政婦として働くことになる。それから早や14年。バベットが買い出しにいくとそれまでの経費より安く、粗末な材料で豪勢な料理ができるのだ。不思議なことに「前よりお金が残るようになったわ」と姉妹は喜ぶ。食事を施される病人たちは器からたちのぼる湯気と匂いだけで笑顔がこぼれる▼バベットのフランスとのつながりはたったひとつ、友人にたのんで買ってもらっていた宝くじだ。それが当たった。1万フランである。姉妹はバベットがお金持ちになりここを出ていくだろうと想像する。信仰をないがしろにし、嫉妬や悪口を平気でいうようになった信者たちの心を改めさせたいと、姉妹は牧師の生誕100年の記念晩餐会を開くことにした。バベットはその晩餐会の経費を含め、すべて自分に任せてくれというのだ。姉妹はそんなわけにいかないと断るが、この14年自分は一度も頼みごとをしなかった、だから今回はきいてくれとバベットはどうも後にひきそうにない。姉妹は折れ、バベットは準備のため休みをもらってフランスに渡る▼ここまでもの静かに序曲を奏してきたアクセル監督は、しだいしだいに映画の緊張を高めていく。おだやかではあったがひなびて陰気だったスクリーンの色調はガラっと変わる。フランスから運び込まれる数々の料理の材料がそれだ。生きている大きなウミガメ。ぎっしり箱に入ってうごめくウズラ。センスのいい目を見はる食器やグラスのセット。箱詰めのワインにシャンパン。色とりどりの果物。なにがおこるのか。姉妹はみたこともない食材の豪華さに恐怖をおぼえる。バベットがなにをつくろうとしているのか想像を絶していた▼思い通りの素材を仕込んだバベットはいよいよ本領を発揮する。アクセル監督のタクトはダイナミックに「バベットの晩餐会」はここからが佳境だ。キャメラはきびきび動くバベットの段取りを追う。まっしろなテーブルクロスをバシッと広げ、ピーンとアイロンをかける、かまどには勢い良く火がはぜる。ロングドレスに長いエプロンをきりりと付け、助手の少年に大きいグラス、中のグラス、小さいグラス、並べる皿の順番などを簡単に覚えさせる。海ガメはスープに、ウズラはトリュフとパイに、つぎつぎ手際よく運ばれる料理とワイン。将軍の前には気前よく「何年ものボトル」1本が黙って置かれる。恐怖のため料理の話はぜったいにしないでおこうと誓った姉妹と村人だが「おいしい」「たのしい」「しあわせ」と口々にしゃべりだし、とうとう手をとりあって歌まで歌うのだ。陰険、険悪だったゲストの表情は溶けるような至福感に輝いていた。思う存分腕をふるったバベットは、上気した顔をザブっと氷を溶かした洗面器につけ、気持ちよさそうに拭いた▼バベットはパリの一流レストラン「アングレ」の天才と謳われた女性シェフだった。それじゃこんな田舎にいることないよね、と姉妹はバベットの離村を確信する。遠慮なく出て行ってくれてよいという。でもバベットは自分にはいくところがない、ここにおらしてくれというのだ。そこでだれでも気になるのがあの1万フラン。どうなった? バベットは「全部使いました。材料の仕込みと、アングレのフルコース・お客様の人数分でちょうど1万フランです」バベットの気持ちを知った姉妹は感動する。おいしい料理が幸せを運ぶ、ヒューマンストーリー。料理にはなんと偉大な力があるのか。アカデミー最優秀外国語映画賞に選ばれました。寡黙でカッコいいバベットを演じたステファヌ・オードランは元クロード・シャブロル夫人。その前はジャン=ルイ・トランティニャン夫人。映画を知り尽くしたパートナーとともに記憶に残る映画をつくりました。「いとこ同志」「女鹿」「ブルジョワジーの秘かな愉しみ」などがあります。

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