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特集「ディーバ(大女優)」

2012年8月3日

特集 ディーバ(大女優)3 マレーネ・ディートリッヒ 恋のページェント(1934年 伝記映画)

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監督 ジョセフ・フォン・スタンバーグ
出演 マレーネ・ディートリッヒ

両性的エロチシズム 

 ページェントって恋愛を扱った歴史劇ってことですね。こんな抽象的なタイトルより元々の「深紅の女帝」のほうがわかりやすかったと思うが、戦前の日本では皇室にかかわる名称を、映画につけることは許されなかったので「恋のページェント」になった、という時代を感じさせるエピソードがある▼ディートリッヒが演じたのはエカチェリーナ2世。プロイセンのフリードリッヒ大王、オーストリアのヨゼフ2世とともに啓蒙専制君主トリオのひとりだ。16歳でロシアのピョートル3世に嫁ぐが、これがまあとんでもない婿どのだった。彼は現女帝エリザベートの甥、将来の皇位後継者だが生まれながらの知的障害のため、女帝はどこからでもいいから健康な男子を出産できる嫁を懸命に探していた。白羽の矢が立ったのがプロシャの小国にいたソフィア・フレデリカ。彼女は学識豊か、武術にすぐれ博学の、勇敢かつ眉目秀麗なプリンスの后という、青春の夢にあふれ故国をあとにするが結果は無残、前述した通り。早くいえば詐欺である▼この役はディートリッヒにとってやりやすかったに違いない。初めての君主の役というのも彼女の貴族趣味を満足させたし、ふんだんに身につける豪華な衣装…ディートリッヒは衣装フェチだが、ただの道楽とちがうところは、ディートリッヒという女優の資質を、極限まで発揮できる衣装を徹底的に知っていたことと、その決定に妥協がなかったことだ。だから彼女は自分が気にいった美容師とデザイナーをどこにいくにも連れていった、かれらがたとえ他社に属する社員であっても、社長に談判して貸し出してもらった。おまけに監督がスタンバーグであるから、どう撮ればディートリッヒが美しく映えるか知り尽くしている。ロシアという寒冷の風土に適した衣装といえばまず毛皮だろうが、それだけでは芸がない▼ディートリッヒの代表作は衣装で決まったといっても言い過ぎではない。「嘆きの天使」では白いシルクハットに黒いガータベルト、「モロッコ」では黒いシルクハットに見事な仕立てのタキシード、ブロンド・ヴィナスでは(衣装といえるかどうかはさておき)ゴリラのぬいぐるみ、この「恋のページェント」では軍服。後年ディートリッヒの愛人のひとりは、ディートリッヒのセックスは男女の性別を超えたものだと言っているが、娘マリアもまた「その言葉ほど母の女優としての謎に関する最上の分析はない」と肯定している。シルクハットにしても軍服にしても、ディートリッヒは意図せずして、自分の男女両性的エロチシズムを知っていたのではないか、男とも女ともつかない性的魅力が、世間に受け入れられるもっと以前に、それをつくりだしていた、というのがマリアの見解だ▼「恋のページェント」では何も知らないウブな娘が、はるばる異国のロシアに嫁入りしたとたん、絶対服従というお妃教育か奴隷教育かわからないしつけでがんじがらめになり、夫はおもちゃの兵隊ごっこに夢中、最初は婚家に溶け込もうとなにをいわれてもペコペコお辞儀ばかりしていたが、こんなばからしいこといつまでもやっておれるかい…エカチェリーナは目覚める。ピョートルが浮気しようと女をつくろうと(頭以外は達者なのだ)どうでもよい、目指すは皇帝の座だ▼カチェリーナの聡明なところはなにを抑えれば権力を手中にできるか、完全に把握していたことだ。彼女は一直線に軍をおさえたのである。兵たちに見向きもしなかったピョートルに比べ、やさしい微笑で閲兵し極寒の地の厳しい軍務をねぎらい、ふるまい酒くらいだしたであろう(それ以上だという話もある)、やがてエリザベート女帝が死去したとたん、後継者となったピョートルの暗愚政治に民衆の怒り爆発というタイミングを逃さずクーデターを起こす。軍服で指揮するエカチェリーナのもと、無血クーデターで彼女は政権奪取する。どうでもいいエピソードだが、エカチェリーナが幼女時代風邪をひくかなにかでベッドに寝ているところがある。ここで出演した少女がディートリッヒの実の娘マリア。のちに「ディートリッヒ」を著し、伝説に包まれたディートリッヒの素顔を著した女性だ。この本の内容は本人が死んだ今だから、また実の娘だから書けた、といっていい内容である。

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