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特集「どんでん返し」

2012年8月13日

特集「どんでん返し」 シャッター・アイランド (2010年ホラー・サスペンス映画)

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監督 マーティン・スコセッシ
出演 レオナルド・ディカプリオ/マーク・ラファロ/ベン・キングスレー/マックス・フォン・シドー

精緻極まる 「からくり願望」 

 冒頭、孤島にむけて小さなフェリーが、大波に激しく揺られながら近づく。濃緑色の猛々しい木々と鋭い岩に覆われた断崖絶壁。唯一船を着けられる細い桟橋は荒波に揺さぶられ、頼りなげに上下している▼連邦保安官テディ(レオナルド・ディカプリオ)と相棒チャック(マーク・ラファロ)の行く先はこの島「シャッター・アイランド」にある精神患者収容施設だ。患者たちはみな凶悪犯罪者。A棟は男性。B棟は女性、C棟は特別凶悪犯。C棟は警戒が厳重で中に入るには院長と警備隊長の許可がいる。広い施設内には足に鎖のついた患者たちが、意味有りげな視線をテディたちに送る。事件の依頼は、昨夜遅く収容されている女性患者が鍵のかかった病室から姿を消した。それも裸足で。彼女を見つけてほしいというのだ。外は台風の前触れのような嵐が近づいている。病院から一歩でたら深い木立に囲まれた崖につづき、切り立った断崖の向こうに灯台がある▼テディはコーリー院長(ベン・キングスレー)やニアリング医師(マックス・フォン・シドー)から事情をきき、失踪した女性患者レイチェルの部屋を調べる。部屋の床に一枚のメモが残されてあり「67」と「4の法則」とあった。病院のスタッフや患者にも聴取するが、数字の意味はわからない。手がかりはない。このあたりで「まてよ?」という気になるかもしれないが、スコセッシの豪腕はぐんぐんピッチをあげサスペンスの渦に巻き込んでいく。ディカプリオは目も鼻も口も眉も、顔の中央にくしゃくしゃっと集まったような寸詰まりの顔だが、筋肉を思いのまま動かす表情の豊かなバリエーションは「この子、よう頑張っているわ」という評価に値する▼前述してきたような謎をはらんだプロローグに、テディの回想がはさまる。ナチのユダヤ人虐殺、ゲットーの山積みになった死体、そこに棄てられ凍りついた女の子にテディはわが子を重ねる。彼のトラウマは悲惨だ。仕事熱心な連邦保安官として妻と三人の子と暮らしていたテディにつらい運命が襲う。アパートが放火され妻は死亡、子供三人は事故死。その放火犯がシャッター・アイランドに収容されている、それがC棟だ。捜査しているさなか、行方不明だった女性患者が不意に戻ってきた。消えたときと同じように、どこからともなく部屋に帰っていたのだ。それじゃオレたちの仕事は解決したのも同然だから帰ろうとテディは言う。しかし嵐はおさまるようすがない。フェリーは欠航。テディとチャックは危険をおかして謎のC棟に潜入する…▼テディがシャッター・アイランドで出会ったものは、放火犯に極悪犯らのほか断崖の洞穴にひそむ女医。彼女は灯台にロボトミーの手術室があり、前頭葉を操作して従順な患者に仕立て直す、彼らは廃人同様になる、現代医学でこれをやったのはナチがユダヤ人に、ソ連は囚人に、アメリカはここシャッター・アイランドで実験してきた、と恐ろしい告白をする。それにしても病院から逃亡した彼女は、この岸壁の洞窟でなにを食べて生きているのだ? 意を決したテディは泳いで灯台に向かう。この灯台がいい。青灰色の空に古びてかすり傷のいっぱいついた白い壁の素朴なたたずまい。岩場の上に屹立し、足元を荒波が洗う。螺旋階段を昇ったテディは、ひとつ、ひとつ灯台内部の狭い部屋を開け、最後の扉を開けたところで思いがけない人物が、自分の来るのを待ち受けているのに出会う▼これ以上粗筋にふれていても無駄だ。ものを創る目、ものを描く、あるいはものを書く目とは、人よりよく見える目ではなく、だれもが見えているものに改めて気づかせる目だ。スコセッシの模型マニアのような作り込みは「ギャング・オブ・ニューヨーク」のセットでもあきれるほどだったが、それを今度は、場所はボストン沖の孤島、時代は1954年に移動した。写実というのではなくリアルというのでもない。スコセッシはなにも写さない。つくる、それも本物の偽物づくりに情熱をもやす変わったやつだ。少なくとも「シャッター・アイランド」にはスコセッシの偽物好きがほとばしっている。偽物といって聞こえが悪ければ、からくり好きといってもいい。彼は「だましのテクニック」のさいたる映画「ディパーテッド」でオスカーをとったことを思い出してほしい。映画とは所詮「からくり」の世界だ。最新作「ヒューゴの不思議な世界」はスコセッシの天衣無縫の「からくり願望」にほかならなかった。

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