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シネマ365日

2012年8月25日

ミッシング (2003年 家族映画)

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監督 ロン・ハワード
出演 トミー・リー・ジョーンズ/ケイト・ブランシェット

三者三様の持ち味充分 

 いい小説にあるしっかりした文体、奇をてらわずそれでいて表現力にとみ、大地を歩行する散文のお手本のような叙述。たとえば、いますぐ思い当たるのは辻邦生の「背教者ユリアヌス」とか「春の戴冠」とか。阿部龍太郎の「信長燃ゆ」とか。なんでこんなことをいいだすかというと「ミッシング」をみていると、優れた散文をじっくり読むような充実感があるのだ▼粗筋は後回しにして、いちばん面白いと思ったことから書き始めると、この映画は「ミッシング」つまり「行方不明者」の捜索ですね。当然「探す」となる。主演はトミー・リー・ジョーンズです。追いかける、捜索する、追及する、それにからむ役として刑事、警官、保安官、弁護士。彼の代表作はこのジャンルに詰まっている。「逃亡者」「追跡者」「告発のとき」「依頼人」「ノーカントリー」それに「メン・イン・ブラック」もいれちゃおう。悪役ですが凝り固まった偏執狂的性格という役どころでは「ブロークン・アウェイ 復讐の序曲」がありました。だいたい出世作となった「逃亡者」でオスカー助演男優賞でしたからね。追跡する役というのは、彼のホームグラウンドみたいなものです▼ケイト・ブランシェット。「ハリウッド50人の美女」の一人に選出されていましたよ。そんな美人の女優さんではありますが、ニコリともしない役、メランコリーな役が多すぎて(たまたまそんな映画ばかりみたのでしょうか)…いや、総体として多いのだ。女傑のなかの女傑・エリザベス1世を二度にわたって演じたのは彼女くらいでしょう。レジスタンスの闘士「シャーロット・グレイ」麻薬犯罪を追及する女性ジャーナリスト「ヴェロニカ・ゲリン」キャサリン・ヘップバーンを演じたのはともかく映画そのものが憂鬱だった「アビエイター」米国CIAの冷酷なエージェントで最後に少女暗殺者に殺される「ハンナ」(走るときのフォームがちょっとまずかったけど。そういえば彼女アクションものに一作も出演していないのは賢明ですね)ジョディ・デンチとがっぷり組んだ「あるスキャンダルの覚書」…とにかく頭脳明晰にして奮励努力の権化が彼女なのだ▼そこへ監督が「ビューティフル・マインド」のロン・ハワードです。どんな映画だったか。敵国の暗号解読を軍に強いられた天才数学者が人生を狂わせる。強度のストレスで幻覚幻聴に襲われ、廃人同様に追い込まれる。妻の献身的な支えで自分を取り戻し懸命に立ち直り、ノーベル授賞式で妻にささげる謝辞が涙をよびました。それだけではない。魔術師「ウィロー」地球帰還なるか、国家プロジェクトの危機「アポロ13号」家族の愛で蘇るボクサー「シンデレラマン」。博学迷彩のような「ダ・ヴィンチ・コード」に「天使と悪魔」。トム・ハンクスといっしょに来日していたからご存知の方もおられると思うが、線の細くみえる容貌のわりに、とにかくガッシリした作品をつくる人なのです▼三者三様のキャラが揃ったのだ。どんな映画になるか見当つくよね。ときは1880年代。荒れた平原の家で医師(映画では治療師という)として娘二人と恋人と平穏にくらすマギー(ケイト・ブランシェット)。そこへふらりと20年前に家族を棄てて蒸発し、今はインディアンとして暮らしている父サミュエル(トミー・リー・ジョーンズ)が戻ってくる。怒りのあまり口もきけないマギーは父を追い返す。町にでた姉娘がインディアンに誘拐された。警察は非協力的。マギーは仕方なく父に同行を頼む▼はっきりいいますとこの映画は活劇なのだ。インディアンの呪術。姉娘の母親への反抗と批判。妹娘のいじらしさ。恋人の惨殺。たとえ一人でも捜索に出発し娘を救出するという母親の愛と勇気(こういうときのブランシェットはキリリと弓をひきしぼったような表情をします。ちょっとこわいけど)親父は娘にとくに過去の弁解もせず、いちいちこまめに、つぎからつぎ憎しみをぶつけてくる娘をあしらい追跡に集中する。一身を挺して孫娘を救おうという父親に、マギーはいつしか「お産のときにつけていたの」と父からもらった十字のペンダントを示す。お前の母さんがくれたものだと父親は明かす。なぜ家族をすてたかについては「おれがいたら幸福になれない」とだけいう。それがまた娘は気にいらない、勝手な理屈だと食ってかかる。愛情の見取り図的やりとりであるが、ツボにはまっているから気をそらさせない。映画の展開とともに、ヘビー級の重量パンチが効いてきます。見応えあります。

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