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シネマ365日

2012年8月26日

ザ・バッド  (2008年コメディ映画)

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監督 ピーター・ヒューイット
出演 モーガン・フリーマン/クリストファ・ウォーケン/ウィリアム・H・メイシー

少数派の支持と共感

 「レッド/RED」より2年前に、3人合わせて200歳という、おもしろい発想でできた映画だったがなぜか未公開だった。冴えないオジンばかりの、アクションでもサスペンスでもスリラーでもない、しょぼくれた映画ということで公開が見送られたのかもしれないが、監督がこの人だ。ピーター・ヒューイットとはキアヌの「ビルとテッドの地獄旅行」そしてあの猫を主人公にした「ガーフィールド」を撮った監督なのだ。「地獄旅行」はロックン・ロールで世界を救い、英雄となる運命をたどる高校生二人の話、「ガーフィールド」とは天上天下唯我独尊のオス猫が、一生で初めて自分以外の、迷子の子犬を救出するためのハチャメチャ冒険譚▼この監督のやることだから、出演はたとえオジンばかりでも、いやそれこそが最大のドラマづくりだとは容易に察しがつく。おまけに顔ぶれがどうだ。クリストファ・ウォーケン65歳(当時)。「ディア・ハンター」や「007」で、精神に異常がある役や悪役にカルト的ファンを持つ。名優とよばれるにもかかわらず気難しくなく、オファされた仕事を選ばないプロ中のプロだ。モーガン・フリーマン(69歳)。いうも蛇足だが「ドライヴィング・ミス・デイジー」「セブン」「ショーシャンクの空に」「許されざる者」「ミリオンダラー・ベイビー」「インビクタス」思いつく映画をあげたが、ほとんどがオスカーの候補か受賞になっているだろう。ウィリアム・H・メイシー(58歳)。シリアスな「告発」やコーエン兄弟の「ファーゴ」があるかと思えば「サーフィンドッグ」に顔をだし、テレビでは「俺たちに恥はない」これで「ザ・バッド」に食指が動かないほうがおかしい▼ヒューイットは腹に一物あることを隠しながら、クリストファ・ウォーケンのクソ真面目なしかめツラから映画を始める。彼の名はチャーリー。警備員一筋、美術館に勤務してきた。彼は一点の油絵「孤独な少女」が好きでたまらない。毎日眺め、守ることが生きがいだった。モーガン・フリーマン扮するロジャーにも大好きな絵があり、これを奪われるくらいならそいつを殺してやると思っている。夜警のジョージ(ウィリアム・H・メイシー)はある彫刻の前で恥も外聞もなく自分もヌードになるくらい惚れ込んでいる。ところが新任の館長が彼らの愛する作品を含め、かなりの蔵館品をデンマークの美術館に移転すると決めた▼値打ちのわからぬ若造がなにをするのだ、彼らはハギシリするが打つ手がない。デンマークは遠い。言葉も難しい。チャーリーはおずおずと老後の移住先にデンマークはどうかと妻にたずねるが一笑にふされる。大好きな作品に会えなくなるくらいならいっそ盗んでしまおうとロジャーがいい、満場一致で可決する。搬出までに贋作をつくり、それを移送のとき本物と交換するのだ。贋作画家の手配やら礼金やら、チャーリーは妻と約束したフロリダ旅行の費用をそっくりつぎこむ。スッポンポンのオールヌードで夜の美術館で真贋をいれかえるメイシーには笑ってしまうだろう。アクションシーンは当然のことながらまったくない。そのかわりニコリともしない三人が年相応の機知をつかい、ありとあらゆる経験を動員して美術品を交換・横取りする手練手管のプロセスが「ガーフィールド」人間版なのだ。つまり猫といい、絵画といい、美術品といい、それが好きでたまらない極めて限定された少数派にむかって「その気持ちわかる、わかる」そんな理解と支持と共感をかきたてる映画を撮るのがヒューイットなのです。彼のオタクも相当なものです▼もうひとりこの人をださないわけにはいかない。ロジャーの妻を演じるマーシャ・ゲイ・ハランド。近くは「ミスト」(2008)や「ローラー・ガールズ」(2009)で。ちょっと古くは「スペース・カーボーイ」の女性教官や「ミスティック・リバー」の母親役で。ロジャーのわけのわからない行動に不審を覚えながら「うちの人、変わってはいるけれどいい人なのだ」という長年連れ添った妻でなければわからない、古女房の情愛をとっても上手にかもしだしたベテランです。

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