女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

シネマ365日

2012年8月28日

或る夜の出来事 (1934年 コメディ映画)

Pocket
LINEで送る

監督 フランク・キャプラ
出演 クラーク・ゲーブル/クローデット・コンベール/ウォルター・コノリー

役者をみる楽しさ 

 役者殺すに刃物はいらぬ、というが、どんなにいい脚本があっても、演じるのは人であるから、役者は最大の映画のファクターだ。「或る夜の出来事」はDVDでみた。劇場でみたクラーク・ゲーブルとは、レット・パトラーが最初だったのだ。都会的なスマートさはないけど、野性的で堂々としていた▼「或る夜の出来事」は有名だから(なにしろアカデミー作品・監督・主演男女優・脚本賞を独占した)もういやというほど評価を得ているし、なにかにつけて引き合いにだされる。クリント・イーストウッドは「チェンジリング」で、今年のオスカーはたぶん「或る夜の出来事」だろうと、ヒロインに賭けをさせている。ゲーブルも監督のフランク・キャプラも映画史上のVIPだ。今さら書くことといってもなあ。そう思いながら見たばかりの「出来事」のいくつかのシーンをあれこれ思い出していた。マイアミからニューヨークまでの夜行バスで主人公二人が顔をあわす。ニューヨークの銀行家の富豪令嬢エリー(クローデット・コルベール)と、編集局長と衝突してクビになった新聞記者のピーター(クラーク・ゲーブル)だ。気の強いわがままなエリーだが、性格の純なところにピーターは惹かれる。エリーも知性をわざと粗野な言動で隠しているようなピーターに魅力を感じる▼父親の銀行家アンドルースは、娘が結婚するという相手がプレーボーイのろくでなしだと見破って結婚に反対しているが、世間知らずの娘はダメ男に惚れ込み、父のヨットから海に飛び込んで、単身ニューヨークへバスで向かう途上だ。3200キロの長旅である。いろんな乗客が乗り合わせ、バスのなかで歌を歌い始める。オーレ、とばかり合唱に加わるゲーブルが楽しそうだ。ケレン味のない顔である。父親の差し向けた探索の手をふりきり、追手を追い払い、ピーターは娘の居場所を知らせたら1万ドルの懸賞金をだすという新聞記事を読むにもかかわらずエリーとの旅を続ける▼所持金は使い果たし、バスにも乗れず、野宿にヒッチハイク。車をとめる心得をピーターがエリーに言ってきかせる。1・最もスタンダードな方法、親指を立て後ろに引く。2・仕方ないから乗ってやるというポーズ。3・腹が減って死にそうだ、頼むから乗せてくれ。この3つのポーズを順番にやるゲーブルが面白い。役者の一挙手一投足が芝居になる見本のようだ。1台の車もとまらない。そこでコルベールがスカートをめくりあげる。ロードムービーの定番はどうも「或る夜の出来事」のこのシーンに端を発するらしいのだ▼もうひとつ、食べるシーンがとてもいい。バスが停車した町の安宿が乗客に割り当てられる。翌日簡単な朝食をゲーブルが作っている。トーストとスクランブルエッグに熱いコーヒーだ。焼きたてのトーストにバターを塗る音。と思うとゲーブルがドーナツのうまい食い方なるものを実演してみせる。空腹で野菜ドロをやって引きぬいてきた人参を、小刀でシュッシュッと皮を剥き、剥いたしりからカリカリッといい音をたててかじる。健康な男の健康な食欲をゲーブルがさわやかに伝える。ゲーブルは歯が悪く比較的若いときから少なくとも「風と共に」の38歳のときは入れ歯だった。この映画は33歳。ニンジンをかじる音をきくと、まだ丈夫な自前の歯だったと思える▼二人は毛布を吊り下げ「ジェリコの壁」をこしらえ、一線を超えない。だんだん本気になってきてどっちもがお互いを好きなのだが、ゲーブルは一文無しの失業中だからプロポーズをためらっている。お互いの身の上話などしながらゲーブルがいう「人並みに恋にあこがれた。愛する女性に出会ったらと。だが本当にいるのかな。どこをさがせばいい? そんな女はいない」しかしエリーの自分への思いを知ったピーターは一大決心をし、自分をクビにした編集局長のいる新聞社に車をとばす▼ラストシーンは、33年後マイク・ニコルスが「卒業」でオマージュを捧げた場面だ。花嫁は花婿をおいてきぼりにしてピーターのもとに逃走する。撮影技術には限界があった時代のことだ。クラーク・ゲーブルといい、純白のベールを水平にたなびかして全力疾走するコルベールといい、きびきびした役者の肉体が小気味よい。

Pocket
LINEで送る