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特集「ディーバ(大女優)」

2012年9月6日

特集 ディーバ(大女優) オードリー・ヘプバーン 
ティファニーで朝食を(1961年 恋愛映画)

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監督 ブレイク・エドワーズ

出演 オードリー・ヘプバーン/ジョージ・ペパード

ふたり? の千両役者

ヒロインのホリー(オードリー・ヘプバーン)は都会にただよう根無し草のような正体不明の女だ。早朝のニューヨークは5番街の宝石店ティファニーの前で、イエロー・キャブ(タクシー)を止める。この時間に黒いドレスを着て車から降りるのは、客を引いた朝帰りだからだろう。ホリーは物憂げな手つきで袋からデニッシュをつまみ、紙コップのコーヒーを飲み、デニッシュを噛む。貧しい朝食を不味そうに食べる。オードリーはパスタが好物でデニッシュは嫌いだった。大勢の見物人が取り囲み、嫌いなデニッシュを食べさせられ終始不機嫌だったらしい。「麗しのサブリナ」「パリの恋人」「昼下がりの情事」「シャレード」「おしゃれ泥棒」と、パリを舞台にした作品が多いオードリーだが、ニューヨークの乾いた感じとも悪くない。そう思わせるファーストシーンだ▼ホリーは田舎に夫や子供を置いたままニューヨークに出てきた。毎週1回刑務所に面会に行き、ある服役者の天気予報(じつは麻薬取引の暗号)を聞いて弁護士に伝える、それだけで50ドル貰うのと、ときどき自分の部屋でパーティーを開いて上流階級の知人・関係者に接触し、金持ちと結婚し不自由のない暮らしを夢見る、まあそんなところを狙って生活している。なにが不満でホリーが出奔したのか、いまだにわからない夫は妻を追ってニューヨークへきたが追い返される。ホリーの上の部屋に引っ越してきたのが、作家志望で現在は年上のインテリア・デザイナーのヒモであるポール(ジョージ・ペパード)だ。ホリーとポールの仲はくっついたり離れたり定番コースをたどるが、それが退屈にならないのは、やっぱりオードリーのヒロイン像だろう。考えればむちゃくちゃである。娼婦同様の暮らしで貧乏だといいながらあくせく稼ぐわけではなく、刑務所訪問で定収入があり、彼女を愛し困ったときには駆けつける月光仮面のような男が現れる。かくも不自然極まるお話を自然にしてしまうのがこの主演女優なのだ。トルーマン・カポーティーは激変した原作になんと対応したのだろう。一説には試写会で椅子から転げ落ちたと伝えられる▼5番街を歩いていてティファニーの前を通りかかったとき、これがティファニーなのかと中に入った(なにも買わなかったけど)。もし映画を見ていなければ足も止めなかった。それだけで決めつけるわけではないが、ティファニーを世界に、特に日本に知らしめたのは本作である。制作費250万ドルに対し興行収入は1400万ドル。オードリーが長男を出産し、スクリーン復帰第1作で放ったクリーンヒットだった。劇中ポールに靴を探してくれと頼み、ポールが散らかった部屋のベッドの下から靴の片方をみつける。それを受け取りながら「ありがとう、わたし大足なの」とオードリーが言うのには笑った。息子ショーンによればオードリーのコンプレックスは、鼻筋がまっすぐでないことと足が大きなことだったというから▼さて主題歌「ムーン・リバー」。ヘンリー・マンシーニはオードリーのためにこの曲を書いたと言っている。彼が作曲した「シャレード」も「ひまわり」も映画音楽の名作だ。オードリーの憂いを帯びた、どこか物悲しさのある雰囲気が歌にこもり、1000以上あるといわれる「ムーン・リバー」のバージョンでも最高だと、マンシーニの折り紙つきだ。オードリーも気に入っていたのだろう。決して上手ではないが、ちょっとさびのあるしっとりした声はホントに雰囲気がある。クリント・イーストウッドの「ヘタウマ」と同じだね。パラマウントの試写会で新社長が「あのくだらん歌をカットしろ」といったとき、オードリーは「絶対にカットさせません」と言って椅子から立ち上がり、そばにいたメル・ファーラー(当時の夫)が思わず制止しなければならなかった。このときのことをマンシーニは、あとにもさきにも、オードリーが自分を抑えきれないのをみたのはあのときだけだと回顧している▼ラストシーンは、絵に描いたようとはこれをいうのですね。ホリーが可愛がっていたネコを「お行き」タクシーから土砂降りの雨のなかに無情に追い出すのをみて、恋人ポールは別れを決める。「君はなにが自分に大切なのかわかっていない。それを知ろうともしない」そんな女、相手にしておれん。大股に去っていく男の背中に甘さはない。ホリーは車を捨てあとを追います。ポールを呼び止めて言う最初の一言が「ネコは?」ずぶ濡れになって這いずるように探すオードリーが、あきらめかけたとき「おおッ」いたのだ。茶色の大きなトラ猫が、これまたぼとぼとに濡れて、空樽のかげにはかなげに雨をよけていたのだ。このネコちゃんで「ティファニーで朝食を」のメルヘンは完成します。千両役者をあげるなら、オードリーと、このネコちゃんを忘れたらいけません。

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