女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

映画監督特集

2012年9月17日

特集 シャブロル「静謐な狂気」 他人の血 (1984年 社会派映画)

Pocket
LINEで送る

インディアメーラー2012
西日本最大級のインドフェスティバル 10月6日(土)・7日(日)・8日(祝・月)

「悪」の進化 

 原作がシモーヌ・ド・ヴォーボワールで監督がクロード・シャブロル、主演がジョディ・フォスターだ。いったいどんな映画になるのだろうと思っていたら、よかった、わかる映画で。このときフォスターは22歳。ふっくらして足も太く、後年「羊たちの沈黙」のようなシャープな容貌ではないのだけど、感受性の強いしっかりものの若い女性という輪郭は鮮やかですね。気が強いことに加え、自分勝手だけど意思の強さがとびぬけ、彼女の恋人ジャンはピンチのときはいつも、フォスターに助けられてばかりいるのです▼時代は1938年のパリ。第二次世界大戦の前夜、洋装店を営むエレーヌ(ジョディ・フォスター)はレジスタンス活動に従事するジャン(マイケル・オントーキン)に惹かれる。彼には恋人がいたが強引に割って入り、もともと気の弱いジャンはすっかりエレーヌと恋仲に。エレーヌの店の上得意のブルジョア女性に扮するステファヌ・オードラン(「バベットの晩餐会」)は4年前にシャブロルと離婚していたが、それはそれとして、きっちり脇を固めている。エレーヌの店でいっしょに働くユダヤ人の母と娘が強制収容所に連行されるときも、エレーヌはなんとかして免れる方法はないかと八方手を尽くす▼そうなのだ。エレーヌとは勝気できついけど、やさしく親切な女性なのだ。ジャンの子を妊娠したら男に知らせず堕胎してしまった。戦地にいるジャンに会うためはるばる自転車で走り、自転車が盗まれると「ふん、わたしと同じことをするやつがいるのね」とばかり動じず、敢然と歩き出してジープをとめ、目的地に到着する。彼が捕虜になるとステファヌ・オードランや男の両親やらのツテを動かし、危険な前線でなく安全な収容所に移してもらう。それなのに事情を知った男は、家出した実家に援助を頼んだと怒るのだ▼こんなブルジョアの息子・観念的甘ちゃん男によくここまで尽くすと思うだろ、え、といわんばかりのシャブロルの鼻息がきこえそうだ。若いときとは見えないものが多いから、ボーヴォワールとはいえ仕方なかったのじゃ、ないの? 奔走のあげく疲れきってアパートに帰り、バスタブに体を沈めているエレーヌにユダヤ人の娘が湯をそそいでやる。彼女ら母娘がゲットーに連れ去られることを悲しむエレーヌに、別れの日母親が言う「いっしょに座り祈りを捧げると神様はかなえてくださるのよ」暗い部屋のテーブルに三人はすわり手をつないで短い祈りをささげる「さあこれでいいわ。いきましょう」運命に翻弄され為すすべなくすべてを奪われる無名の人を描くとき、シャブロルの視線は静かで、やさしい。ブルジョワを弾劾するときの鉄のような、狂気を秘めた冷たさとえらい違いである▼エレーヌの恋人であるジャンという男もいいやつではあるが、もうちょっとどうにかならないのか、ジレジレした観客は少なくなかったにちがいない。ドイツ人の貿易商(サム・ニール)がエレーヌに心底まいっている、厳重な警戒もノーチェックで通れる通行証をエレーヌは持っている、だから彼女に、政府要人が泊まるホテルに暗殺用の拳銃を持ち込ませよう、とレジスタンスグループが計画する。ドイツ人の情婦だという噂を払拭するため、勝気なエレーヌはあえて危険な役をひきうけるが、それを止める男の、止め方の形式的なこと▼サム・ニールは敵国の女を愛する自分の立場がよくわかっている。エレーヌが自分を利用しているのもわかっている。さんざんレジスタンスの道具に使われ、当局からも疑いを招いた。エレーヌが暗殺幇助のため拳銃を持ち込んだこともわかった。でもこういわずにはおれない「いっしょにドイツに行こう、そして平和にくらそう、愛しているのだ」エレーヌはまだこの男を騙そうとする。フォスターの22歳にしてけっこうな悪女ぶりである。この線をもっとのばせばベティ・デイビスの後継者になれる素質はあるのに「羊たちの沈黙」以後「ブレイブ・ワン」や「パニック・ルーム」など、妙に平凡な正義の路線に行っちゃったからね。取るべきは復讐の方向だったのですよ。そろそろ頭のいい勇敢な女や、ワケ知りの良識派やキャリアウーマンを卒業したらどう。「ブレイブ・ワン」もせっかくの復讐路線だったのに半端に終わったのは、エレーヌがもっていた「悪」がなかったからです。いまからでも遅くないから考えてみな、ジョディ。

Pocket
LINEで送る