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映画監督特集

2012年9月21日

特集 シャブロル「静謐な狂気」最後の賭け(1997年 クライム・サスペンス映画)

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監督 クロード・シャブロル

出演 イザベル・ユペール/ミシェル・セロー/フランソワ・クリュゼ

やさしさと慎ましさ 

シャブロルには珍しい、幸福感がただようエンドです。こういうわかりやすい映画をもっとつくっていてくれたらよかったのに。今回のシャブロル特集最初の「いとこ同志」で書いたけど、シャブロルはアガサ・クリスティに「入信」するほど好きだった、という彼の性格の根っこが「最後の賭け」にはよく現れていて、好きですね、この映画。イザベル・ユペールといい、ミシェル・セローといい、フランソワ・クリュゼといい、シャブロル組の息のあったクルーで作られています▼ここでもシャブロルは「わたしはこの登場人物(詐欺師)によく似ている。全員が私の考え方を備えている」と例によって自己投影というか、自己同一視というか、それによって対象との関係性を強め、登場人物の造形を深くするというアプローチの方法を述べています。「過小評価されている美徳が二つある。慎ましさと優しさだ。この二つは、手にいれるのはたやすいが充分に活かされていない。優しさは武力と同じだけの力がある。これがあれば氷の壁も破れる。慎ましさとは、恐怖を抱かせないところが素晴らしい。論理から言っても、実用から言っても、慎ましさと優しさは生きていく上でのよきパートナーだ」ですって。慎ましさの美を心からたたえたのがこの映画らしいのだ。シャブロルのいうことだからねー。でもここは素直にそのつもりになって見ていきました▼60男の詐欺師ヴィクトール(ミシェル・セロー)と女弟子ベティ(イザベル・ユペール)はカジノの客を色仕掛けでだまし、小金を稼ぐ詐欺師コンビ。シャブロルによれば二人の関係は「父と娘、夫と妻、好色な年配男と未熟な背徳妻、叔父と姪、養女、たぶん観客の好むすべて」らしい。要は好きに考えてくれということね。確かにこの二人、色恋沙汰は薄そうで、年の離れた「ともだち」といえばいちばんピッタリする感じ。ヴィクトールは大きな「騙し」はやらない。今年も三度の詐欺で10万2400フランを稼いだ。臨時出費のための供託金を除き、残りを二人で山分けした。出納係のように几帳面な詐欺師だ▼つぎの仕事はスイスのシリア=マリア。歯科医の学会がありベティはロシア人シシ・ペトロヴィナを名乗る。ヴィクトールは退役軍人の大佐だ。翌日ヴィクトールにベティは若い男モーリス(フランソワ・クリュゼ)を紹介する。彼は実業家で国際的グループの経理を担当し、マネーロンダリングした金を国外に運ぶ係だ。ベティは1年がかりでモーリスからその情報を引き出し、ヤバそうな金ではあるが、今回運ばれるのは500万スイスフランだと舌なめずりしているのだ▼ヴィクトールは乗り気ではない。ヤマが大きすぎる。ベティとモーリスが親密すぎるのも気に入らない。ベティもはたしてどこまでヴィクトールと組むのかその信頼度はイマイチ、と映画はもっていく。観客は三者三様のからみをどこまで信用していいのかわからない。そう思い始める。スイスの雪山から3人はカリブ海に。007顔負けの舞台移動だ。500万スイスフランの入ったカバンをすりかえ、ベティとヴィクトールは大金をものにしたが、ヤバイ金に手をだした詐欺師二人をマフィアが放っておくはずがない▼ハリウッド映画と違い、シャブロルは危機に陥った二人を胸のすくアクションで脱出させるわけでもなく、一発逆転のどんでん返しを仕組んだわけでもない。カバンをあけたら金は予定の半分の250万フランしかなかった。白状しろとヴィクトールは指をへし折られるが、しがない俺たち小者の詐欺師に、そんな大それたことができるわけがない、というヴィクトールの言い分をマフィアのボスは妙に納得し、半分とはいえ250万ドルは手に入ったのだから儲けものだ、グズグズしていると足がつく、こいつらはそのへんの海辺に放り出してずらかろうという、非常に日常的な顛末とした。ベティとヴィクトールは手錠をはめられて砂浜に転がされる。ああ疲れた、寝ましょう、と度胸がいいのか思い切りがいいのか、ベティがぐっすり眠って目を覚ますとヴィクトールの姿がない。自分の手首には手錠の片方がはまったまま…一人ホテルにもどると当座は不自由しない現金を残してヴィクトールは行方をくらましていた▼数年後、美しい湖畔の住まいをベティが訪ねる。ヴィクトールがそこにいた。車椅子のヴィクトールを見るベティの目は冷ややかだ。なぜあのとき置き去りにしたのか。さてここから二人の淡々とした、シャブロル流・慎ましさとやさしさが描かれる。「最後の賭け」が不評だったのはいつものシャブロルの毒気が足りなかったせいだと思われるが「この映画のよさが理解されなかったのは残念だ」とシャブロルはインタビューでぼやいていた。

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