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特集「どんでん返し」

2012年9月24日

特集 どんでん返し番外編/ケビン・スペイシー「ベスト3」
セブン(1995年 サイコ・サスペンス映画)

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監督 デビッド・フィンチャー

出演 ブラッド・ピット/モーガン・フリーマン/ケビン・スペイシー/グウィネス・パルトロウ

ワルでダメ男、おまけにド変態

確かに重要な役ではあるが「セブン」をケビン・スペイシーの主演作とするのは、ちょっとちがうと言われるかもしれない。だいいちスペイシーの名はオープニング・クレジットには出てこないのだ。デビッド・フィンチャー監督は、主役二人とグウィネス、そのつぎくらいが犯人だろうと推量されるのを防ぎたかったとしている。スペイシーにしても、映画が公開されるまで自分が出演していることは絶対に宣伝しないでくれといってサプライズを狙うほどの、気のもたせようだった▼「セブン」は雨がよく降る映画だ。ロスの路地裏の、汚い壁が続く下町。コートから雨滴をしたたらせて街を歩く刑事。定年退職まで1週間となった老刑事サマセット(モーガン・フリーマン)の、抑制のきいた重みがいい。七つの大罪をモティーフにした連続猟奇殺人事件だ。サマセットは事件のただならぬことを察知するが、血気にはやる新米刑事ミルズ(ブラッド・ピット)とことごとく意見が食い違う。しかしミルズの妻トレイシー(グウィネス・パルトロウ)は、サマセットを夕食に招き、気さくに話すうち彼の誠実で公正な人柄を信頼する▼事件はこうだ。大量の食物を監禁され銃で脅されながら無理やり食べ続け、内臓破裂で殺された男は「大食の罪」。高級オフィスで肉を切り取られ、血まみれになって死んだ弁護士は「強欲の罪」。1年にわたってベッドに縛り付けられ、脳はすでに溶け、舌と左腕を切断され、廃人同様となって横たわっていた男の罪は「怠惰」。娼婦が「肉欲の罪」で殺され、美人モデルは美しい顔をザクザクに切り刻まれ、自殺した。これで5人。あと二人とその罪は「嫉妬」と「怒り」だ。手掛かりを求めて、サマセットはFBIしかタッチできない図書館の貸出記録を違法に入手し、宗教関連の書籍を何冊も借りていた男ジョン・ドウ(ケビン・スペイシー)を容疑者として割り出す。警察がジョンの部屋を捜索すると、これまでの被害者の写真が発見され彼を犯人と断定する。ジョンは大胆にもミルズに電話してきて、計画変更を告げる。血まみれのシャツを着た男が警察に自首してきた。ジョンだった。ジョンは取り調べを受けるが言を左右し、残る殺人の全容をはっきりさせず、ミルズとサマセットを指名。彼らだけにあと2体の死体の在り処を教えるという…▼ケビン・スペイシーがブレイクしたのはご存知「ユージュアル・サスペクツ」だ。ならばそれまでなにをしていたのか。もちろん映画にでていたが「鳴かず飛ばず」だった。デビュー作は1986年(27歳)の「心みだれて」だ。それから「ユージュアル・サスペクツ」までの9年間、彼はテレビにも出た、映画にも出た。どんな役かといえば車の中でセクハラに及び、ヒロインの反撃にあうなさけない上司(「ワーキング・ガール」)。と思えばやり手の上役にへつらい、弱いものいじめで部下の業績を貶める、営業部の中間管理職(「摩天楼を夢みて」)、スワッピングをもちかけたあげく、自分の妻を殺してしまう保険金詐欺の男。立場を利用しアシスタントに無理難題を吹きかける誇大妄想狂(「プロデューサー」)。つまり悪役か、変態か、卑怯者か、ろくな役でなかったことは確かだ▼こういう経歴を踏まえて抜擢された主役とは、当然のように悪役だった。つまりケビン・スペイシーとは、ワルの似合う役者として華麗な俳優歴のスタートをきったのだ。これは覚えておいていいことだと思う。彼の役者としてのサクセスは、ワルとダメ男と変態の延長線上にある。彼がオスカー主演男優賞を取った「アメリカン・ビューティ」は、いまさら言うに及ばないがヒーロー像とはほど遠い。上昇志向の強い妻を思いやる度量もないかわり、自らの野心も成功願望も皆無、ひたすら頑張る妻を冷笑し、娘の同級生に一目惚れしてサカリのついた中年ド変態だった。スペイシーの演技は演じるというより変幻自在のカメレオン的没入とよくいわれるが、こういうスペイシーの演技上の多重人格性が、いやらしく、おぞましく、グロテスクで、しかもおそろしいほど自然に発揮されたのが「セブン」だった。スペイシーのもうひとつの傑作「ライフ・オブ・デビッド・ゲイル」を「ベスト3」の最後に選び、残念だったけど「精神科医ヘンリー・カーターの憂鬱」は割愛した。機会があればあわせてごらんになれば、ケビン・スペイシーという俳優の、ふとどきなほどの知性がよくわかると思う。

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