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シネマ365日

2012年9月30日

狩人の夜(1955年 サスペンス映画)

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監督 チャールズ・ロートン

出演 ロバート・ミッチャム/シェリー・ウィンターズ/リリアン・ギッシュ

幻の名作 

世界恐慌の吹き荒れる1930年代。場所はオハイオ川の静かな田舎町。主な登場人物はせいぜい七、八人。モノクロの画面をくっきり白黒で幻想的にし、サスペンスを盛り上げていったチャールズ・ロートンである。表現主義的な様式がかちすぎる? 幾分それはあるが最後まで息もつかせぬ監督術に脱帽しよう。ロートンにとっての監督第一作だった▼傑作なのに失敗作とみなされた。興業的にも失敗でロートンは嫌気がさし二度と監督に手をださなかった。「理由なき反抗」や「暴力教室」や、テクニカラーの社会派映画が話題になり、白黒映画が観客に古いとみなされたというが、そんなことで是非の判断が狂うとしたら、大衆とか時代といったものも、ときに愚かな判断をくだすものだ。今になって「狩人の夜」はカルト的評価を得ている。チャールズ・ロートンはディートリッヒがいったところの「ハチに刺されたような唇」をねじ曲げて、嗤っているにちがいない▼銀行強盗で奪った1万ドルを、逮捕寸前娘パールの人形に隠した父親は、息子のジョンに絶対金の隠し場所をいうな、なにがあっても妹を守れ、男の約束だぞ、といって刑務所へ。父親は死刑になるが刑務所でいっしょだった伝道師ハリー(ロバート・ミッチャム)は、大金の所在をかぎつけ、出所後未亡人になったヴィラ(シェリー・ウィンターズ。「陽の当たる場所」でモンティに殺される役でした)に接近する。ハリーは異常な性癖の持ち主でセックスを嫌悪し、未亡人だけを狙って殺害する連続殺人犯だった。彼は左手の指に「H・A・T・E」(憎しみ)右手の指に「L・O・∨・E」と入れ墨し、巧みな説教で町の人々の信望を得て、まんまとヴィラを結婚する▼結婚するがベッドにヴィラを近づけない。セックスは神を冒涜するという、わけのわからぬ演説でヴィラを篭絡し彼の信者にしてしまう。ただ一人ハリーに気を許さないのがジョンだった。ハリーは徐々に本性を現し、ヴィラのいないときにパールを虐待し金の在り処を聞き出そうとした。その現場をみたヴィラをハリーは残虐にもノドを切って殺害し、車ごと川に沈め、妻が蒸発したが自分は妻を信じていると仮面の牧師を演じる▼大人たちはすっかりハリーに騙される。ジョンがハリーは不審人物だと訴えても本気にしない。ジョンは妹を連れカヌーにのって川をくだる。ハリーは執拗に追ってくる。月光を浴び遠い丘にたたずむ黒い影がひとつ。それが殺人鬼なのだ。頼りない大人ばかりのなかで、とうとうジョンの味方が現れる。みよりのない子供たちを世話するレイチェルだ。貫禄の登場がリリアン・ギッシュである。レイチェルはジョンのいうことをすぐ理解し、くねくねと善人ぶって現れたハリーが、父親だと名乗っても銃をつきつけて追い返す。ハリーは夜陰に乗じて再び忍びこむ。子供たちと警戒にあたるレイチェル。ハリーが夜襲するシーンの闇と光のコントラストだけで観客は震えを覚える▼「でたーッ」と思わず叫ぶようなハリーの出現に、レイチェルは躊躇なく銃をぶっ放す。とにかく腹がすわっているのである。適役でしたね。リリアン・ギッシュはこのとき62歳。1893年生まれ。映画の創成期から仕事を始め75年に及ぶ女優人生を歩んだ。最後の映画は「8月の鯨」でベティ・デイビスと姉妹を演じた。リリアン94歳。デイビス79歳だった。もうこうなると年齢がどうとか演技がこうとか、すべての批評は五目ラーメンの五目的要素にすぎず、女優魂だけが光っているような二人だった▼「狩人の夜」で、チャールズ・ロートンは6歳年上のこの大女優にふさわしい、心あたたまるエンディングを用意している。レイチェルにはひとつも寄り付かない自分の息子がいる。生活力のない息子でろくな将来はあるまいと読んでいる。しかしレイチェルは一人前になった息子に無用の心配はするまい、自分にも自分の人生があると思う。クリスマスの朝、子供たちがそれぞれ用意したプレゼントを受けて、レイチェルは今の幸せをかみしめる。殺人鬼の正体を見抜く炯眼といい、ジョンの訴えをとりあげる理解力といい、ロートンはこういう女性が好きだったのではないかしらね。レイチェルが登場してから「狩人の夜」はぐっと厚みがでましたよ。

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