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特集「ディーバ(大女優)」

2012年10月3日

特集 ディーバ(大女優) エリザベス・テイラー 
熱いトタン屋根の猫(1958年 家族映画)

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監督 ミヒャエル・ハネケ
出演 ウルリッヒ・ミューエ/ズザンネ・ロータ

入魂の「猫」

劇の中心がブリック(ポール・ニューマン)の同性愛にあるのに、そこを迂回しているからなにをいいたいのかわからなくなった、と「セルロイド・クローゼット」で評していたからあまり期待しなかった。確かに隔靴掻痒のまだるっこさはあったけど、でもいい映画だよね。注意して聞いていないと前後関係がぼやけてしまうきらいもあるけど▼南部の旧家。富豪一族の次男ブリックはフットボールの花形選手。妻よりも父よりも母よりも誰よりも、親友スキッパーを愛していた。スキッパーがホテルにいたときに妻のマギー(エリザベス・テイラー)が訪ね、その夜スキッパーは自殺した。ブリックは妻とスキッパーの間に不倫があったと疑い、酒浸りとなり妻に指一本ふれなくなった。マギーは欲求不満でヒリヒリ、足が焼けつくから飛び跳ねる「熱いトタン屋根の猫」状態だ。ブリックは冷酷だ。そんなに辛いなら飛び降りろ、つまり他の男と浮気しろというのである。不思議な男ね。触りたくもないほど嫌いなら離婚してやるのが筋じゃないの。別れる度胸もなく、というよりいじめるマギーがいてくれないと困るのよ。いやがらせに手も握らず、ネトッとした上目遣いで妻をみやり、ウジウジ責め立てる。彼は松葉杖をついているが、これは午前3時に運動場でハードルを跳びそこねたからだ。ハードルに転んだくらいで大の男が骨折するのかよ▼エリザベスは撮影中マイケル・トッドの事故死に遭遇した。18カ月の結婚生活だった。エリザベスはそれまでにも、愛する人の危険や悲劇を予知することがあった。トッドとの結婚生活は幸福そのものだった。これ以上精力的だった男性はいまいと思わせる甘美な男性で、たくさんの生と愛を盛り込んでくれたとエリザバスは後年述懐した。トッドとの結婚でエリザベスは初めての娘を得た。妊娠中、脊髄の手術があったために出産が危ぶまれたがエリザベスはひるまず産み落とした。「あの赤ん坊は欲しくて産みたくてたまらない子だった」と吐露している。エリザベスのショック状態で撮影は一時中断したものの彼女は現場復帰した。一流の女優と認められるためには人気と大役だけでは足りなかった。難しい役をやってのけることが求められた。マギーはエリザベスにとってその試金石だった。エリザベスは投げ出さなかった。歯を食いしばりセットに姿を現した▼マギーはフリックを心から愛している。貧しい家から嫁ぎ、義父ビッグ・ダディ(パール・アイブス)にも姑にも可愛がられ、やっと幸福を得たと思えば、夫は同性愛者だった。このジレンマ。なんとか夫婦としてやっていきたいが、それにつけても相手のスキッパーとまともに話し合わなくちゃ。そう思うのは当然至極な要望だろう。そこでマギーはホテルのスキッパーの部屋に訪ねていく。これがフリックの疑惑の根拠だ。マギーは言う「あなたを取り返すことができるならなんでもやったわ、なにをきかされたっていいという気持ちだったわよ」叩きつけるマギーにフリックは返す言葉がない。始めからなにもないのである、この人には。そこをいちばんよく見ぬいているのは父親だった。妻にも事業継承にも、煮え切らない息子に父は男同士サシで話す必要を感じていた。父においつめられ彼が余命いくばくもない重症の癌だとフリックは口をすべらす。救いようがないおバカではないか▼父はショックだったがすぐ態勢を立て直す。「いいか。虚無だとか絶望だとか口にするやつの9割はろくでなしだ。本当の現実とは愛していない女を抱き、実りのない仕事に耐え、絶望のなんたるかなど言葉にするひまもなく働くことだ」。親父が正解よ。それなのに映画ではフリックに点が甘いわね。爬虫類みたいな目付きでポール・ニューマンは好演だったけど、自分で自分の墓穴を掘る見本みたいな性格じゃない。リチャード・ブルックス監督だから、この劇をサスペンス仕立てで盛り上げたけど、感情も思考も未熟な三十男がどこまでも妻に頼り、離婚する勇気もなく、裕福な実家にぶらさがって働きもせず酒だけ飲んで、やれ「頭の中でスイッチがカチッと入る音」がどうだ、こうだと好きなこと言っているわけでしょう。それをきいた親父が言う「おれのスイッチなんか100万回も入っている」いやー好きだなーこのお父さん▼ここまでドラマティックに盛り上げた監督術に敬意を評し、文句はここまでにしよう。エリザベスは食べることが大好きだった。しかしさすがのエリザベスもトッドの死から撮影に復帰したときはすっかり痩せ、白いドレスやサテンのスリップでの撮影には体重を元にもどす必要があった。退院してきた義父の晩餐会のシーンにごちそうが並ぶ。南部風フライドチキン、バターたっぷりのマッシュポテト、そのシーンが始まると監督はメガホンで叫ぶ「食べろ、エリザベス。食べなさい!」監督が怒鳴りエリザベスが少しでも食べると「カット!」そして何らかの理由でそのシーンは撮り直しになる。この八百長の撮影をまる二日続け、エリザベスは食欲をとりもどし、自分から食べるようになった。体重は回復した。撮了したとき全員が拍手でエリザベスをねぎらった。エリザベスは後年、ブリックス監督と、監督に加担して無理やり自分に食べさせたスタッフ一同の計略を、感謝をこめて思い出に書いている。

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