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特集「ディーバ(大女優)」

2012年10月6日

特集 ディーバ(大女優) エリザベス・テイラー 
バージニア・ウルフなんかこわくない(1966年 社会派映画)

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監督 マイク・ニコルズ

出演 エリザベス・テイラー/リチャード・バートン

静けさと狂乱の愛 

エリザベスは何かを教えてくれる男性が好きらしい。演技のイロハを手に取るように伝授したモンゴメリ・クリフトがそうだった。リチャード・バートンはシェイクスピア役者だった。エリザベスがバートンと結婚したのは彼がとても偉くみえたからだろう。「バージニア・ウルフなんかこわくない」を選んだのは、いわゆる「リズの美貌」に関係ない文芸作品で、バートンを相手役にできるものがほしかったからだとしている▼マーサ(エリザベス・テイラー)の夫ジョージ(リチャード・バートン)は大学で歴史を教える助教授だ。深夜自宅に来客が二人。将来を嘱望されている生物学教授のニック(ジョージ・シーガル)と妻ハニー(サンディ・デニス)。マーサは学長の娘で万年助教授のジョージを「あなたはクズよ」と来客の前でいうほどの傲慢な女。かくいうマーサも中年のなかば、どちらもくたびれた夫婦だ。ふたりは学長主催のパーティーから帰ったばかりで、つまらないことで言い合いを始める。いまから客があるときいてジョージは顔をしかめるが「パパがもてなせというのよ」とマーサは意に介さない▼マーサはやたらと夫に食ってかかり、口汚く罵り、大声でわめき嘲笑する。バートンは背中を丸め分厚いメガネをかけヨレヨレのガーディガンを着て、部屋のなかをうろうろと歩くうらぶれた男だ。そのくせマーサが一言嫌がらせをいうときっちり言い返し、あざけることにかけては負けていないのだ。「歩く陰険」である。この夫婦はだからどっちもどっちなのだ。エリザベスはこのとき34歳だが実際の年齢よりも老け、だぶだぶと贅肉がつき、腹は出て、大きな頭と短い脚をしたまるで初老の女である。エリザベスは後年、好きな映画は「緑園の天使」とこの「バージニア」をあげている。人気女優が通用しない役柄であることを承知し、演技力で勝負しようとその気で取り組んだ映画だった。甲高い金切り声を低い声に変え、鈍重な中年女の動きにふさわしく9キロも体重を増やし、それまでスタッフや他の主演俳優を平気で待たせていたエリザベスが、おおむね正確にセット入りした▼人を苛立たせ、消耗させてしまうのが「女王・エリザベス3世」だったし、バートンもきわめて複雑で予測不可能な行動をした。要は、どっちも人がしてはいけないということをするのが好きだという、ひとつもいうことをきかない性格だったのだ。バートンの酒量はとめどなく上がった。常に人から注目され一挙手一投足を批判されるスターという立場に加え、妻がエリザベスであるから、そのストレスは常人に考えられないものがあろうが、でもエリザベスは平気だった。マイク・ニコルズは「バートンは注目の的になることに疲れてしまったが、テイラーは決してうんざりすることはなかった。どんな脚光を浴びても、彼女は満足することがなかった」エリザベスはタフだった。不死身の火喰い鳥だった。彼らの喧嘩は口論だけではなかった。ニューヨーク・ポストが記録的な記事をとどめている。ロケ先のことだ。断崖の上に位置するホテルのテラスに座っていた大勢の客の目の前で、バートンの衣装のすべてが、ハンガーにかかったまま、彼のスイートの窓から海へとびだしていったのだ▼マーサはハンサムで体格のいいニックにさかんに流し目をくれる。ニックが不器量な妻と結婚したのは妻の実家の財産が魅力だったと酔いに任せてニックが告白。どことなく虫が好かなかったジョージはますますニックが嫌いになる。おまけにマーサがニックを誘惑し寝室に誘ったことを知ると「覚悟しろ」ジョージはつぶやき、なにごとかを決意する。ジョージとマーサの間に子供はいなかった。二人はジムとなづけた空想の子供を産み育て、今は21歳になった。そのことは他人には絶対話さない夫婦だけのよりどころとしていたのだが、妻の情事を知った夫は冷酷にこう告げる。「マーサ、さっき交通事故があって、もうジムは帰ってこないのだ。死んだのだよ」マーサは半狂乱になる。空想と現実の見さかいがつかなくなった妻の混乱を夫は突き放すだけだ▼しかしマーサはニックらにこういう「たったひとりだけ愛した人がいるの。ジョージよ。本気にしないでしょうけど、わたしに出会ってあの人は自分の人生を台無しにしたの」意外なマーサの告白に若い夫婦は戸惑う。エリザベスのクローズアップが絵になることは有名だが、うつむいて目を伏せたこのときの、深い絶望と悔恨となおたたえる愛の表情は、これでオスカーは決まったのではないかと思えるほどだった。もうひとつ度肝を抜かれたのは、パーティーのドレスを普段着に着替えたエリザベスだ。巨大な胸にブラウスははちきれそう、ぴちぴちのGパンに包まれた大きなお尻は前後左右に張り出し、短めの脚が容赦なく目立つ。エリザベスの大きな頭は威容だが、かつらのせいでさらに拡大。降りてきたエリザベスをみて三人は(アッ)声にならない声を発する。よくもここまでとセンスの悪さにのけぞるのだが、あながち演技だけではなかったと思う。気狂いじみた二組の夫婦のパーティーも、夜明けとともにお開きになった。若い夫婦が帰っていったあとで、ジョージとマーサはなにも話すことがない。ふたりはジムを生き返らすか、弔うか、なにかして、また自分たちにしかわからない愛の砦にたてこもる。エリザベスは二度目のアカデミー主演女優賞を取る。だれがみても「エリザベス3世」の輝かしい玉座はゆるぎなかった。そのはずだった。しかし人生とはわからない。何故か知らないが節目節目で命にかかわるトラブルに出会うのがエリザベスだが、このときも、もうすぐエリザベスの地獄が口をあけてまっている。

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