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特集「ディーバ(大女優)」

2012年10月8日

特集 ディーバ(大女優) エリザベス・テイラー 
秘密の儀式(1968年 サスペンス映画)

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監督 ジョセフ・ロージー

出演 エリザベス・テイラー/ミア・ファロー

デイビス化するリズ

ここはロンドンの安アパート。客をとった後のレオノーラ(エリザベス・テイラー)が、ブロンドのかつらをとり、黒い地毛をみせる。リズ特有の黒髪が現れる。この映画でリズはだいぶしょぼくれた役らしい、と観客はいやでもショックを受ける。住まいは金銀きらめくご殿でもなし、召使もおらず、寝室に天蓋のある広大なベッドもなし、暗いじめじめした狭苦しい下町のアパートで、安物のブラウスを着たリズはメイク落としまでやってみせるのだ。天上天下唯我独尊・四位これ黄金を極めた「クレオパトラ」から5年。この間「バージニア・ウルフなんてこわくない」で二度目のオスカーは取るし、そのへんの豪奢と栄華には刺激もなにも感じず、残るは女優極北の道「ベティ・デイビス路線」に挑戦することにしたのか。これはあながち的はずれな推測ではないと思う。本作でリズは「君はウシに似ている。モウ~」「年増のブタ女」「どこまで太れば気がすむのだ」「まったく品がない」とか、ちやほやされてきた美貌のヒロインとは、打って変わったひどいセリフを投げつけられ、びくともせずそれを認めるばかりか「だからどうなのよ」と、こればかりはひとつも衰えない盛り上がった胸をつきだすのである▼そこへ、前作「ローズマリーの赤ちゃん」よりもっと気色悪い役でミア・ファローが現れる。地球人というよりとんでもない惑星の生物に近い異相だ。細い目に薄い唇。骨っぽい体に透けそうな皮膚。静脈の本数が勘定できて体温を感じない、そんな冷血動物みたいな姿態でチロチロと移動するのだ。この二人がそろっただけで、どうにもこうにも尋常の世界のお話ではないと思い知る効果がある。こういう老獪なところが、さすがはジョセフ・ロージーだろう▼自分の不注意で娘を水死させてしまったレオノーラは生きる希望もない。薄暗い部屋にかえればさびしくひとり娘の写真を見つめる。それなのにぽちゃぽちゃしているのはストレスのために、まともな食事をしないからだ。お墓まいりに行くバスのなかで妙な女が隣にすわった。これがチェンチ(ミア・ファーロー)だ。勝手に「マミー」と呼んでお墓にもついてくる。教会にもついてくる。帰り道の途中チェンチが家によってくれというから入ったが、広大な豪邸である。調度も衣類もとびきり上等。レオノーラは豪華な毛皮のコートについ袖を通す。そこへチェンチが朝食を支度して運んでくれた。湯気のたつ香ばしいフランクフルトは黒い焦げ目と黄色いカラシが絶妙のバランス。熱い紅茶、焼きたてのワッフルにはたっぷりなクリームが。レオノーラは目を輝かせナイフとフォークを取りあげる。このシーンのリズだけでも本作は一見の価値がある。うまそうに喰うのだ。勢い良くフランクフルトにかぶりつき、口からはみでそうなフランクフルトを片手でおさえ、トーストにカリカリ音をたててバターを塗り、小気味よく白い歯をたて、ワッフルと交代、交代いそがしく口へ。急ぐ余りのどをつめウウ~と唸りながら紅茶を口に含む。リズの形のいい上唇がくっきりとマイセンの器に刻印される。嵐のように咀嚼してのち(食った、食った…)満足気に椅子にもたれ大きな腹をなで、仕上げは「げふっ」壮大なゲップである。そこまでやるかリズ。思わず笑ってしまうだろう。最初はあなたのお母さんじゃないわと拒否していたレオノーラだが、チェンチのあられもない慕い方に情が移る。なにしろチェンチは実の子でもここまでと思うほどレオノーラに尽くしてくれるのだ。料理も上手だ。主なる理由はこれかもしれない。というのもチェンチがレオノーレのベッドに運ぶトレーの豪華な内容をみただけで、リズの目はピカっと光るのだ。はたして演技だろうか▼もうひとり、ロージーのずる賢さのきわだつ配役がこれ、ロバート・ミッチャムだ。連続殺人者にして幼児虐待の異常な牧師を演じた「狩人の夜」が38歳のとき。「秘密の儀式」では51歳になっていましたが、あんまり年を取ったっていう感じがしないのですね、この人。本作では母恋しさに狂ったふりをしているチェンチに近づき、幼児のときからやってきた性的虐待をまたやろうという義父だ。チェンチは22歳になっているのに着るものは女児服である。いっしょに暮らしているうちにレオノーラまで麻痺し、チェンチの世界にふたりで暮らしてもいいと思うようになる。とはいえ莫大なチェンチの財産を狙っている二人の叔母や義父からチェンチを守ってやりたいとレオノーレは思う。叔母ふたりは篭絡したが一筋縄でいかないのが義父だ。レオノーレのことを大食いの「ウシ」とか悪趣味な「ブタ」とか呼び、センスが悪いのは娼婦だからしかたないとバカにして、レオノーレを追いだそうとチェンチに入れ知恵する▼親子ごっこを止めたチェンチは、現実の孤独のなかで生きていくことができず自殺する。そこへ追いやったのが義父だと思うとレオノーレは許せない。人は幻想と知りつつそのなかに幸福をみいだすことだってある。それを奪う権利があるか。許されてもいいのではないか。レオノーレは哀れなチェンチの棺のそばで義父を刺殺する。ミア・ファローはフランク・シナトラとの結婚が破局を迎えていた時期に仕事をすることは辛くはあったろうが、エリザベスが人生の先輩として助言を与えたことに後年感謝している。

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