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特集「ディーバ(大女優)」

2012年10月9日

特集 ディーバ(大女優) エリザベス・テイラー 
クリスタル殺人事件(1980年 ミステリー映画)

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監督 ガイ・ハミルトン

出演 エリザベス・テイラー

 

不幸の中でファイト満々 

44歳のとき上院議員夫人となりエリザベスだが、夫のジョン・ウォナーは妻が政治家の妻として満足していないことを知り、女優活動再開に同意した。銀幕から遠ざかり、地に落ちて久しい女優としてのキャリア、習慣性薬物とアルコールへの依存は、業界の関係者をエリザベスに対する失望と幻滅に結びつけていたのに、たったひとりそうでなかったのが本人のエリザベスだった。彼女は言っている「わたしはどんな役でもやってきたわ。たまには〈落ちぶれた役〉もいいわね。それにわたしは〈落ちぶれ役〉が得意なの」▼「クリスタル」はアガサ・クリスティ原作の「割れた鏡」だった。往年の大女優が結婚し、傷害のある子供を産み、子育てが一段落して現場に復帰する、という前提だ。クリスティのミス・マープルもので、マープルを演じたのはアンジェラ・ランズベリーである。配役をみただけで犯人がわかりそうなのが難だ。クリスティの作劇の盛り上げ方として、端役を犯人にすることはほとんどないからだ▼ダイエットと格闘する自分の一部始終を打ち明けた「エリザベス・テイラーの挑戦」は、彼女の自己宣伝だという評もあるが、いったい女優の書いた自伝で自己宣伝でないものがあるだろうか。そんなことに目クジラを立てるより、ものを書くとは自己主張以外のなにものでもないと認め、エリザベスの言いたいことをまず聴くほうが、読み手としてはモトがとれるのである▼その自著にはたくさんの写真が併載され、百聞は一見にしかず。キャプションもエリザベスが自分でつけた。それをたどると「…飲酒」「…過食」「…体重増加」「もっと…」「そしてもっと増えた!」「まん丸くパンパンにはち切れんばかりになって」「自負心を失った証拠。髪も化粧も体重もおかまいなしだった」「これこそわが冷蔵庫に貼り付けてある写真」(54キロのエリザベスが82キロになったときの写真)「アルコール。やけ食い。薬」そしてこうある「〈割れた鏡〉でジェラルディン・チャプリンと共演中。目、表情、わたしの様子全体が不幸を物語っている」本作はだからエリザベスの不幸の真最中にあたったわけだ▼うれしいこともあった。夫役のロック・ハドソンは「ジャイアンツ」以来親しい友人だった。彼と20年ぶりの共演したことだ。しかしすでにハドソンはエイズに感染していた。エリザベスは本作のあと家族の懇請でアルコール・薬物依存症の治療のため入院。グループ治療でカミングアウトした「わたしはアルコールと薬物の常習者です」の一言が「今までもっとも長いセリフだった」と言っている。1985年10月ハドソンは死亡する。エイズ患者が受ける差別が、アルコール依存症や肥満の自分が経験した社会的な冷視につながった。エリザベスはエイズ患者を支援する団体、ハドソンが没する1カ月前「米国エイズ研究基金」をたちあげ、社会から見放された人間に力を尽くそうとした。これもエリザベスの自己宣伝と受け取られた。しかしサンフランシスコ綜合病院のエイズ病棟を訪問し、当時エイズが皮膚感染するかどうか定説はなかったが、ごく自然に患者の手をにぎり握手するエリザベスをみたジャーナリストが「彼女以外にこういうことをした人がいただろうか」と書いている。活動はそれで終わらなかった。翌1986年5月連邦議会の小委員会で参考人として出席、エイズの緊急対策費用の増額を求める意見を陳述し、翌年米国エイズ研究基金全米理事長に就任した。アメリカのみならずフランスでの同様の活動によりフランス政府はエリザベスの慈善活動に文民を対象にした最高のレジョン・ド・ヌールを授与した。何歳になろうとエリザベスの「やると思えばどこまでやるさ」はおさまっていない▼不幸な中にいたとエリザベスは自分で言うが、劇中「あなたがあの有名な女優のマリーナさん?」「ええ、古い女優の」と平気でいい、今をときめく人気女優役のキム・ノヴァクに「そこのへんな動物をどっかへやってちょうだい」と怒鳴りつけるセリフを楽しそうに発している。このエネルギッシュにしてファイト満々のどこが不幸だったのだろう。なんといってもエリザベスは老練だった。公人のエリザベス・テイラーと私人のそれのイメージを混同しないよう子役のときから自分に課しきたと、これもどこかで書いているが、9歳からそんなことを訓練していたら、どう考えてもおめでたい女になるはずはないだろう。トルーマン・カポーティが「エリザベスの藤色の瞳の奥にゆらめくのは、決して消えることのない猜疑の光」だとしているのは至言だ。

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