女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

シネマ365日

2012年10月23日

鳩の翼(1997年 社会派映画)

Pocket
LINEで送る

監督 イアン・ソフトリー

出演 アリソン・エリオット/ヘレナ・ボナム=カーター/ライナス・ローチ/マイケル・ガンボン

与える者強し 

時代は1910年、とあるから日本でいえば明治43年、今から112年前ですね。劇中3人の主人公が展覧会に行き、そこで見る絵がグスタフ・クリムトの「ダナエ」です。絵の前でヒロイン、ミリー(アリソン・エリオット)は青白くなります。体を丸めた女性の豊満な太ももの傍らを、金色の奔流が子宮に向かって流れ込む。もちろんクリムトは精液の横溢を意図しています。苦痛のように歪む絶頂の表情にミリーは息苦しくなってその場を離れます。今まで見られなかった大胆な性。世紀末から20世紀初頭にかけ、あらゆる場面で価値観の変動がおしよせていたときが「鳩の翼」の時代でした▼「鳩の翼」とはイギリスでは「無垢」を意味するとか。アリソン・エリオットはタイトル・ロールである、本当に無垢な天使のような女性を演じています。本作では身寄りのないアメリカの大富豪、しかも余命いくばくもない薄幸の女性を、そして「天使はこの森でバスを降りた」でも文字通り「天使」でした。それにひきかえ、役柄と持ち味はかくもフィットすると、あえてそう観客に思わせたいのかと監督の意図をかんぐりたくなるのがヘレナ・ボナム=カーターです。彼女はイギリスの名門出身、ケンブリッジ大学に入るが女優としてのキャリアを考え、止めたという変わり種だ▼女優歴はくどくど書くまでもない。「英国王のスピーチ」では英国アカデミー賞助演女優賞に輝いた。いろんな賞のノミネートとなると数えるのがたいへんなくらいですよ。そのチャレンジ精神ときたら「フランケンシュタイン」で顔を切り刻まれても、「ハリポタ」(不死鳥の騎士団)でサディスティックな殺人鬼〈死喰い人〉を演じ、最後は石化して粉々に打ち砕かれても、「アリス・イン・ワンダーランド」でイケズな赤の女王になっても、ティム・バートン監督にめちゃくちゃのメイクをほどこされても、ボナム=カーターの女優根性はめげないのだ▼「鳩の翼」では完全に悪役ですね。ミリーが不治の病であり、しかも自分の恋人マートン(貧乏なジャーナリスト=ライナス・ローチ)に恋していると知ったケイト(没落貴族の娘=ヘレナ・ボナム=カーター)は、ミリーとマートンを結婚させ…結婚までいかずともミリーがマートンに財産を残すくらいの関係にもっていかせようと二人の接近を企てる。ミリーは最後にはケイトのたくらみがわかり、自分が遺産狙いの道具に利用されたことを知るが、それでも「あなたたちを愛しているわ。心配しないでもすべてうまくいくわ」と自分の死後を予見し、裏切ったケイトとマートンに財産を分け与えるのだ▼ケイトはケイトで、没落した貴族という哀れな境遇から脱出するためには金が必要だとはっきりわかっている。財産を失った哀れな父(マイケル・バガボン)は阿片窟で娼婦とくらす廃人同様の境遇だ。自分の後見人であるモード伯母(シャーロット・ランプリング)は一刻も早く金のある男と結婚させたがっている。だから大富豪でややこしい係累が一人もいない、ミリーの財産をいただくのがいちばんいい方法なのだ。ところがこの計画に賛同したはずのマートンが、ミリーのあまりの純粋さにうたれ、自分が恥ずかしくなってしまう。あれこれ計略をめぐらすケイトを「あわれな女だ」とばかり冷たく横目でみます。キミだってそんなこと言えた義理じゃないだろ、と思うのですけどね▼結局全てを与え、いちばん豊かな心で死ねたのはミリーで、望み通り金を得たものの敗北感に打ちのめされたのはマートンとケイトでした。ミリーに比べ、難しい役であったと思いますが、貧しさから這い上がるためには手段を選ばない女を、ヘレナ・ボナム=カーターは好演、このひと一筋縄でいかない女が好きなのですね。悪役が楽しいのでしょう。彼女は小柄です。だから上背のあるシャーロット・ランプリングと向きあうと段差が歴然。ボナム=カーターは、首がだるくなりそうなほど見上げて喋っているのです。監督はせめて高下駄くらい履かせてあげるべきですよ。吹き出すかもしれないけど、クリント・イーストウッドが監督兼俳優をやっていたとき、192センチの彼と上手に目線のあう相手役がなかなかいなくて、女優さんはビールのケースみたいな台に乗ってクリントと喋っていたのですよ。

Pocket
LINEで送る