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シネマ365日

2012年10月26日

毛皮のエロス ダイアン・アーバス 幻想のポートレート(2006年 伝記映画)

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監督 スティーブン・シャインバーグ

出演 ニコール・キッドマン/ロバート・ダウニー・Jr/タイ・バーレル

フリーク

ダイアン・アーバス(ニコール・キッドマン)は異能の写真家だった。「毛皮のエロス」では、ライオネル(ロバート・ダウニー・Jr)との出会いによって写真の世界にのめりこんでいく。裕福な家に生まれ不自由なく育ち、恵まれた結婚をして貞淑な妻であり母であり、カメラマンの夫のよき助手として仕事をしていたダイアンが「フリーク」によって覚醒し、異形の現実に肉薄し、かつその表層のなかにたたえられる真実に、温かく冷静な視線を注ぐ▼ファーストシーンはダイアンがヌーディストの家を訪ねるところから始まる。素っ裸で庭の手入れをしている夫。一糸まとわぬままお茶をいれてくれる妻。彼らはごく自然にダイアンを受け入れ、好きなように撮ってくれてよいと承諾する。条件はみつめないこと・欲情しないこと・撮るほうも裸になること。三つ目の条件にダイアンはためらうが…場面は一転3ヶ月前に移る。1958年のニューヨーク。ダイアンは36歳でファッション・フォトグラファーの夫アラン(タイ・バーレル)の助手をしている。アランは美しい妻が自慢だ。仕事は一流女性誌の表紙など順風満帆。子供たちは健康で、いうことはないのにダイアンはときどき「夫の手伝いと子供の世話。これだけで自分の人生は終わるのか」言いようのない不安に襲われる▼そんなある日、同じアパートの上階に男が引っ越してきた。顔を目だけあけたマスクで覆い、夏だというのに長いコートを着て荷下ろしの指示をしている。それがライオネルでその異様ないでたちにダイアンは激しく興味をそそられる。彼女はライオネルに「フリーク」を感じたのだ。フリークをそのまま訳せば奇人、変人、奇形、異常な出来事になろう。ライオネルは全身が毛で覆われる多毛症だった。顔にも密生しかろうじて目の所在だけがわかる。彼は毎朝5時に起きて毛を剃っていたが、追いつかないので今は伸びるにまかせ、ウィッグ(かつら)を作って数少ない利用者に提供している。ダイアンはライオネルを通じ彼の友人たちに紹介される。小人症、巨人症、シャム双生児、小頭症。彼らと打ち解けるにつれ、彼らの身体がもつ著しい違いを可能なかぎり写そうとダイアンは思う▼ここでちょっと映画を離れ、写真家としての彼女の仕事をみると、ダイアンは自分が子供のころ直視、あるいは訪れることを禁じられていた人や場所を写真で記録することから始めた。両性具有者、服装倒錯者、精神病院に収容されている人、ヌーディスト。従来の美の基準や社会の常識とかけ離れた人々、つまりフリークを、レンズを通して見つめた。それは強烈な存在だった。モデルもまた、ダイアンが自分たちを見せ物として扱うのではなく、障害という表面の奥にある人間の真実に迫ろうとしていることを感じとり、すすんでレンズの前に立った。そこは公園や街路や家の中だった。日常生活に溶け込んだ普通の場所に、静かにたたずむ彼らの写真には、ふしぎな詩情と交感がある。1967年といえば「毛皮のエロス」時代から9年後だ。ダイアンはニューヨーク近代美術館で開催された「ニューヨーク・ドキュメンツ展」の写真家に選出され評価を高めた。写真家としてのダイアンの活動は10年に満たない。慢性的なウツ病に苦しみ、肝炎を患う強度なストレスのなかで、1971年7月26日自宅で死亡しているダイアンが発見された。自殺といわれる▼こういう事情を知ったうえで「毛皮のエロス」をみると、そもそも「毛皮のエロス」とはなにを意味しているのか。ダイアンの実家が有名な毛皮メーカーで、毎年高名なファッションショーを主宰しているからか。まさか。それとも死期の近いことを知ったライオネルが自死する場所として海を選び、沖に向かって泳いでいく、そのときダイアンに残したものが毛皮のコート。ライオネルが長い自分の毛で作ったコートなのだ。それがエロスなのか。これ以上つきあっておれないが、ラストシーンだけは書いておこう。そこはたぶん、ヌーディストたちが集まるとある邸宅の庭園だろう。広々とした緑の芝生の上に男女のヌーディストが三々五々散策している。男同士も女同士もいる。ダイアンは、とみればニコール・キッドマンが全裸で登場(カメラだけ持って、というところが刺激的)。ベンチに腰かけている若い美女に声をかけ撮らせてほしいという。いいわと快く彼女はOK。あなたの秘密はなに?(この問はダイアンが夫とよくやっていた言葉ゲーム)と尋ねると彼女は笑って言う「あなたから教えて」「いいわ」短いシーンだが、ダイアンが抵抗なく、フリークに受け入れられる存在であったことをきちんと示している。

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