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シネマ365日

2012年10月31日

この森で、天使はバスを降りた(1996年 ヒューマン映画)

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監督 リー・デビッド・ズロトフ

出演 アリソン・エリオット/エレン・バーンスタイン/マーシャ・ゲイ・ハーデン/ウィル・パットン

切なさと希望のエンド

監督が意図してこう描き分けたのかどうかわからないが、まずキャスティングからみていくと、ヒロイン、パーシーにアリソン・エリオット(「鳩の翼」)。さびれた町の食堂を一人で切り盛りする年取った女主人ハナにエレン・バーンスタイン(「アリスの恋」)。内気な主婦シェルビーにマーシャ・ゲイ・ハーデン(「ミスティック・リバー」)を配した。彼女らと組む男優陣が、ハナの甥でシェルビーの夫ネイハムにウィル・パットン(「アルマゲドン」)、ベトナム戦争で心を病み森に隠れ住むハナの息子イーライにジョン・M・ジャクソン(「グリマーマン」)▼5年の刑期を終えて出所したパーシーは、片田舎の小さな町で人生をやり直そうとメイン州のギリアドでバスを降りた。保安官は彼女をハナの食堂に住み込みで働かせてくれと頼み込む。ハナは無愛想だがパーシーの過去を詮索せず受け入れる。よそ者に冷たい田舎町でパーシーは好奇心、疑惑、敵愾心の入り混じった視線にさらされるが、自分が刑務所帰りだということを隠さずに働く。ハナの甥のネイハムが執拗にパーシーを犯罪者扱いし、殺人を犯した彼女の罪状をほじくりかえす▼ネイハムは妻のシェルビーを食堂の手伝いに寄越すが、聞くに耐えない侮蔑した言葉をいつも妻に吐く。子連れで働き出したシェルビーはやさしい性格だ。パーシーに料理を教えおいしいケーキをいっしょに焼き、パーシーもシェルビーにつらかった心の傷を打ち明ける。脚をケガしたハナは仲のよい二人に店を任す。ハナにはしかし秘密がある。それを解決するためにはお金が必要で、だから店を売ろうとして不動産屋の甥に頼んでいるが10年たっても売れないのだ▼パーシーは刑務所で知った「作文コンクール」を応用してみたらどうかとハナとシェルビーに提案する。ダメモトでやってみようと三人は知恵をしぼり「森林レストランの経営者」募集のコピーを考える。応募者は参加料100ドルを添え、どんな店にしたいかを作文に書いてハナに郵送するのだ。刑務所の仲間がコンテスト参加者募集記事を、アメリカ中の新聞社に配信してくれた。首を長くして待つパーシーたち。返りは1通しかなかった。ハナはため息をつくがシェルビーとパーシーはあきらめない。なにがコンテストだと冷たい反応だった町の住人たちを尻目に、1通、2通と応募はふえ、とうとう数日後、山のような便りが配達される。一挙に20万ドルの大金を得たハナたちを、住民は嫉妬と羨望で眺める。ハナは「アンタたち、これを読んで審査員になったらどう」と町中をコンクールにだきこむ▼映画はここまでテンポよく軽快に進展する。しかしネイハムの凝り固まった猜疑心が暴走する。20万ドルの紛失をパーシーのせいだと決め付ける夫に(じつはネイハムのしわざなのだが)シェルビーは生まれて始めて反撃する。「証拠もなくパーシーを罪人扱いするのはやめて。あなたは自分がケチな男だから、生き生きしている人間が妬ましくて仕方ないのよ。イーライに対しても嫉妬のかたまりだった。今度はパーシーだわ。これ以上パーシーを悪くいうなら別れるわ」このときのマーシャ・ゲイ・ハーデンがいい。心やさしいウサギのように闘うことを知らなかった彼女が、火を吹く山猫のごとく夫のコンプレックスをグサグサにし、パーシーを擁護する。思えばこの映画、監督がどこまでも「生き生き」させているのは女たちで、男たちとくると平気で地べたに突き落としているのだ。ネイハムはその代表だが、戦争で心を病んだイーライにしても監督の点は甘くない。彼は世をはかなみ母親さえ遠ざけ世捨て人の暮らしをやめない。人に迷惑かけないのだからいいだろう…かもしれないが食糧だけは毎晩きっちり取りにくる活力のなさに、監督の憐憫が込められている。パーシーにだけ心を許すといえば聞こえはいいが、一体いつまで女たちに助けられているのだと思える存在である▼悲劇のあとパーシーを失ってはじめてイーライは山を降りる。ハナは作文の最優秀者を選び、店をゆずる。シェルビーは夫と別れた。大きな仕事が待っていた。森の中の小さな町ギリアドは、町あげて出所した受刑者の受け入れ先となったのだ。おりしも、子連れの若い女性店主を得た食堂「スピットファイヤー・グリル」(これが原題)の開店と、受刑者支援センター設立を祝うパーティーが、住民総出で開かれている。サンダンス映画祭観客賞受賞。

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