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特集「ディーバ(大女優)」

2012年11月4日

特集 ディーバ(大女優) キャサリン・ヘプバーン 
デスク・セット(1957年 コメディ映画)

監督 ウォルター・ヤング

出演 キャサリン・ヘプバーン/スペンサー・トレイシー

 

稀有なる女優

ここでいうデスク・セットとはIBMが開発した巨大コンピューターである。ニューヨークはロックフェラー・センタービルにある大手テレビ局の資料室に女性4人が勤める。責任者がミス・ワトソン(キャサリン・ヘプバーン)。魔物のような記憶力と頭の回転、資料室にかかってくるどんな問い合わせにも瞬時に対応する。ふらりと資料室にやってきて、巻尺で天井や壁の寸法を測っているのが、社長が呼んだ技師だというサムナー(スペンサー・トレイシー)。コンピューターの導入によって人員削減をしようとしている、そんな噂があっという間に会社中に広がった。リストラのトップにあがったのが他ならぬ資料室だ▼本編の主軸はふたつ。ひとつはコンピューター導入による社内のドタバタと、ひとつはワトソンのラブロマンスだ。彼女は7年越しにつきあっているマイクがいるが、仕事にかまけいっこうにプロポーズしてくれない。ある日、やっと休暇をとった、海外旅行に行こうというマイクの誘いにワトソンは大喜び、同僚にいいふらし「ついにくるべきプロポーズのときが来た」と有頂天になるが、急な出張で婚前旅行はドタキャン。ありふれた筋書きをキャサリンが、語尾の最後まではっきり聞き取れる明快なセリフ回しや、体操の種目別演技のような、スピード感のある動作で退屈させない▼サムナーは謎の男だ。会社のリストラ推進派か、と思うと資料室の女性たちの博学と教養と仕事熱心さに、お世辞とは思えぬ共感と、一夜漬けではできない理解を示す。ワトソンがサムナーを調べたところ、マサチューセッツ工科大学を卒業後、コンピューター開発にかかわってきた優秀なエンジニアだ。サムナーとワトソンの間になんとなく微妙なオーラが交錯すると、それまでワトソンを放っていたマイクが急に積極的になり、彼女に接近するが、ものごとすべてタイミングというのもがある、潮時を逸したマイクの口説きは、いまやワトソンには雑音同様だ。サムナーは自分たちを解雇しようという張本人なのに。資料室の女たちは、さあどう出る▼いよいよコンピューターが資料室に運び込まれた。1957年といえばIBMのハードが初めて市場に出てから間もなくだったと思う。一室ほとんどを占領する軍事基地みたいなコンピューターだが、どことなく玩具めいているところがおもしろい。大きな画面にゲームみたいな明かりが明滅して、図体の大きいメカのなかに、まるで人でも入って操作しているような愛嬌のあるコンピューターである。複雑な計算をワトスンは一発で回答するが、コンピューターはモタモタしているばかりかショートして煙を吹き出す。でもサムナーにいわせると初動はともかく、順調に稼働するとコストダウンばかりか、従業員の労働の軽減化に貢献するという。そのあたりになってコンピューターの導入は社員の首切りが目的ではなく、買収にともなう業務拡大をスピーディーに処理する経営判断であり、社員の動揺を招かないため、社長の指示を直接受けたサムナーが実務に当たったということがわかる▼どこまでも予定調和のこの映画、いわくありそうで結局なにもなかったという、しょうもない内容といえばいえるのだが、そのしょうもないお話、ありふれた内容、珍しくもないラブロマンスに息を吹き込んでいるのはある種の「気配」というしかない。ふーん、なんだ、ふーん、つまらんことばっかり言って、ふーん、やっぱり思った通り、そういうセリフになるのだな、そらみろ、なんてぶつぶつ言っているうちにエンドになり、しかもこれといった不満もないのだ。キャサリン・ヘプバーンの自伝を読んだときも、この独特のサラサラした感じがついてまわり、ふーん、ふーん、と言っているうちに読み終わってしまった。なんだろう、この淡白な真水みたいな持ち味は。スペンサー・トレイシーとのことを書いた「愛」なんか詩みたいである。「デスク・セット」の出来は、なにもとりえはなく、キャサリン・ヘプバーンという女優がでているというだけの映画だ。しかしそういう以外ほかに言いようがなかった映画はたくさんある。どんな映画かといえば、それが…稀有なる女優の映画、としかいいようがないのだ。