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特集「ディーバ(大女優)」

2012年11月6日

特集 ディーバ(大女優) キャサリン・ヘプバーン 
冬のライオン(1968年 事実に基づく映画)

監督 アンソニー・ハーヴェイ

出演 キャサリン・ヘプバーン/ピーター・オトゥール

 

妻は最高のライバル

時代は1183年。ヘンリー2世(ピーター・オトゥール)は初代イングラ王だ。田舎の一領主にすぎなかった彼が、フランスを含めた西ヨーロッパを支配するアンジュー帝国を打ち立てることができたのは、フランス全土の三分の一にも及ぶ広大な所領を、持参金代わりに持ってくるエレノア(キャサリン・ヘプバーン)と結婚したからだ。彼女はヘンリーより10歳年上だ。しかしヘンリーはロザムンドという愛人をこしらえエレノアと別居、何度となく息子と組んで反乱を起こす妻を10年間も幽閉している。現在では養育するという名目で迎えたフランス王女アリーヌと事実上夫婦となり、50歳となったいま体力は壮健ながら後継者で頭を悩ませている。というのも三人の息子、いちばん武勇にすぐれた長男のリチャード(アンソニー・ホプキンス)はゲイでマザコン、十字軍に参加したという勇猛な母親に頭が上がらない。次男のジェフリーは、母親に可愛がられる長男と、父親が可愛がる三男ジョンの間で権謀術策に走る陰気な青年になった。今年のクリスマスはフランスのシノン城で祝賀されることになり、フランス王フィリップ(ティモシー・ダルトン)も招かれる。幽閉中の王妃も参加する。つまりこのドラマは父親を亡き者にし、王位継承をめぐるロイヤル・ファミリーのお家騒動なのである▼狂言まわしになるのがフィリップだ。鷹のような鋭い目、鋼のような長身、黒々とした剛毛であごを縁取り、15歳のときリチャードと関係したと告白するが、それをいつまでも甘酸っぱく覚えているのはリチャードのほうだけ。フィリップはきれいさっぱりポイ棄て、チャンスがあり次第使えるカードの一枚くらいにしか考えていない。そのフィリップの部屋に、三人の息子とヘンリーがひとりずつ密かに訪問しフィリップを懐柔しようとする。息子たちがみな自分を裏切ったと知ったヘンリーは、背後で息子たちをあやつるのはエレノアであると見越し、夜明けとともにローマへ出発、法皇に離婚訴訟すると鼻息も荒く側近をたたき起こし、息子たちを地下の酒蔵に閉じ込める。離婚とともに全財産をまきあげられるエレノアが拱手傍観しているはずがない。酒蔵へ息子たちを救出にいき、ヘンリーもまた出発の前に息子たちを処刑するため地下へ。ここで役者が勢揃いする。波瀾万丈のクリスマスはいよいよクライマックスである▼リチャードの首を刎ねようと打ち下ろしたヘンリーの剣はリチャードの肩で止まる。いちばんできのいい長男を父は殺す気などなかった。ただ母親にベッタリで自分に従わないのが気に入らなかったのだ。そういえば息子三人はみな「お父さん、僕を可愛がって、可愛がって、僕に声をかけて」「お母さん、なぜ僕を愛してくれなかったの」という「親恋し」の声なき声を発している。エレノアがこれまたみごとで、息子三人を、自分をかえりみなくなったヘンリーへの復讐の手段として使嗾し「あなたたちを可愛いと思ったことはなかったわ」とケロリ。エレノアはヘンリーを今でも愛している。数々の反逆はヘンリーの愛を奪い返したい一心が形を変えたものだ。ヘンリーも自分に太刀打ちできる胆力と智謀を備えた稀なる女性を、従順でないことに腹をたてながらもどこかで愛している。味方であれば頼りになるのは息子どころではない。しかしそんなあぶない女を敵に回したことから、王位継承のお家騒動は始まったのだから、いわば自業自得である。ヘンリーはそのへんがよくわかっているから、やれ離婚だ、ローマ行きだ、とわめいても結局はもうすこし様子をみようと、夜明けとともにローマ出発は取りやめとなる▼酒蔵に閉じ込めた息子たちも自分の領地にひきあげた。クリスマスがすめばエレノアは幽閉地にもどる。船で帰るエレノアを桟橋に見送るヘンリーは、復活祭にはまた会おうと言う。ヘンリー2世は最後まで息子の反逆に苦しめられた。彼は56歳で死ぬが、反乱軍の中に三男ジョンの名前をみつけた失意が彼から気力を喪失させたといわれる。エレノアのその後は知らない▼12世紀のイングランドの王室とはどんなだったのか。それを再現したセットが素晴らしい。石造りの城塞、玉座は粗末な木の椅子、パーティーは分厚い板を張っただけのテーブルを広い土間に並べ、スズみたいな酒器にワインをいれてガブ飲みする。食べ物は固まりで出された肉を剣でそぎ手づかみで。ナイフもフォークもない。食べ物の種類も少なくパンは見当たらない。粉を焼いた大きなせんべいみたいなものを食べている。王家だろうと閣僚だろうと贅沢とはほど遠く、ヘンリーはとくに精力的に仕事をこなし、法の制定やら閣議やら領地検分やら、座っているのをみたことがなかったそうだ。厳しく勇猛果敢な王にも容赦なく人生の冬は訪れようとしていた。エレノアは言う「あなたは冬のライオンよ」。ライバルとはときに最高の理解者であることがある▼トリビアだけど、アンソニー・ハーヴェイ監督、ピーター・オトゥール、アンソニー・ホピキンス、ティモシー・ダルトン、みなイギリスの演劇人のなかで一人、アメリカ人はキャサリン・ヘップバーン。どっちも英語をしゃべるのだから文化もいっしょだろうと思うとえらいちがい、シェイクスピアの国にどこか萎縮しがちなアメリカ映画人のことを思えば、これだけの布陣を向こうに回してキャサリン健闘です。