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シネマ365日

2012年11月13日

特集 「ブラックな笑い」マーズ・アタック(1996年 コメディ映画)

監督 ティム・バートン

出演 文中に含む

弱者が地球を救う 

豪華なキャスティングなのだ。米国大統領デイル(ジャック・ニコルソン)、その妻マーシャ(グレン・クローズ)、娘タフィ(ナタリー・ポートマン)、宇宙生物学者ケスラー教授(ピアース・ブロスナン)、タカ派のデッカー将軍(ロッド・スタイガー)、ハト派のケイシー将軍(ポール・ウィンフィールド)、テレビレポーターのナターリア(サラ・ジェシカ・パーカー)、その恋人で報道記者ジェイソン(マイケル・J・フォックス)、元ヘビー級チャンピオン、バイロン(ジム・ブラウン)、トレーラーハウスに住むリッチー(ルーカス・ハース)にそのおばあちゃん(シルヴィア・シドニー)。ベガスの歌手でトム・ジョーンズ本人が出演▼火星人がやってくる。このニュースの報告を受けたホワイト・ハウスでは(火星人受入派)と(撃退派)が喧々諤々協議を重ねていた。論議は出尽くし大統領の決断を待つ。ケスラー教授、ハト派の将軍は「彼らは高度な文明を持ち文明人であり平和志向だ。地球発展のチャンスだ」とし、タカ派の将軍グループは「正体不明の異星人など故郷に追い返すべし」。大統領は平和と友好政策に色気を出して、火星人を受け入れると決める。歡迎会場には報道陣がつめかけた。円盤が着陸した▼気持ち悪い連中だった。火星人は身長70センチ。巨大な緑色の頭に脳みそが透けてみえ、目玉が異様に大きく飛び出し、骸骨のような歯を剥いて「ギギギ」「ガガガ」と耳障りな音を発する。ケタケタと笑うときは歯がカチカチと鳴り、目玉の中にある瞳の赤い点がくるくる回るのだ。鼻の位置には凹みがあるだけ。グロテスクきわまりない。地球人歡迎陣が整列して迎え翻訳機が「ギギギ・ガガガ」を翻訳したところ「我々は友好のためにきた」▼テレビの中継でそれを聞いた大統領は欣喜。宇宙の歴史の1ページは間違いなく自分が開いたと感激する。平和のシンボル、白いハトが放たれた。火星人の態度が激変「ギギギ」と火星人高官がハトを指さしたとたん、左右に控えた兵隊の熱線銃が火を吹き、あっというまに地球人を殺戮。全滅させた▼火星人は邪悪のかたまりだった。マイケル・J・フォックスもあっさり殺されてしまった。熱線銃で焼かれると緑色の骨だけになってしまうのです。広い歡迎会場は緑色の骨でうめつくされる。タカ派の将軍は核兵器の使用許可を大統領に申請する。大統領は「どうしよう」と妻の顔色を伺う。妻は断固決然「ブッ殺すべきよ」でも大統領は煮え切らない。教授はこの期に及んで「誤解があったのにちがいない、コミュニケーションをとりなおそう」なんて言い、大統領はまたもや穏便策に出る。勝負あった、ですわ。国民が一方的に犠牲になったのに話しあうもヘチマもあるか。リスク・マネジメントとしては大統領夫人のほうが理に敵っているじゃないですか▼オーピニングから映像が楽しい。音楽はダニー・エルフマン。宇宙の彼方から無数の円盤が押し寄せる。空間遊泳のようなメロディは明るいのか暗いのか、陽気なのか陰気なのか、敵なのか味方なのかわからない、ミステリアスな火星人の登場を想像させる。正体を剥きだした火星人は議会に招かれるやまたもや熱線銃で国会議員を皆殺し。大統領はサシで火星人の頭目と相対し、大統領の熱弁に火星人の目からはホロリ涙が。ついにかれらの心を動かした…はずなのにその直後あえなく大統領は刺殺される▼我がもの顔に侵略してきた火星軍団はとある老人ホームに来た。そこではリッチーのおばあちゃんがウォークマンで好きな音楽に夢中、背後に迫った火星人に気が付かない。おばあちゃんを助けようと飛び込んできたリッチーは、勢いあまってイヤホンをはねのけてしまう。ミュージックが部屋に流れたとたん、火星人の巨大なミドリの大脳はつぎつぎ破裂しはじめた。おばあちゃんとリッチーは、火星人は音楽で脳を狂わすとわかった▼ラストはどことなくしみじみしていますよ。父大統領も母もなくしたタフィが政府を代表し、廃墟となったホワイト・ハウスでおばあちゃんとリッチーを表彰する。リッチーの父母も殺されてしまった。町中に緑色の死体が山積み。殺伐とした風景のはずなのにバートンの映画空間は明るい。大統領も将軍も軍隊も大学教授も、メディアも権力も役にたたず、地球防衛を果たしたのがおばあちゃんと孫と、妻のところに帰る貧しい元ボクサーという、社会的弱者だったところがバートンなのだ。