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シネマ365日

2012年11月15日

特集 「ブラックな笑い」フェティッシュ(1996年 ブラック・コメディ映画)

監督 レブ・ブラドッグ

出演 アンジェラ・ジョーンズ/ウィリアム・ボールドウィン

殺人事件フェチ

レブ・ブラドッグ監督はタランティーノが見込んだ監督らしい。タランティーノの「パルプ・フィクション」は、殺人事件の現場専門の清掃人が登場する映画だった。だからというわけでもないでしょうが、彼の弟子筋の本作は、徹頭徹尾「殺人事件フェチ」のヒロインが、もだしがたい懇望によって殺人現場清掃会社に就職するところから展開する▼ガブリエラ(アンジェラ・ジョーンズ)は子供のときお菓子屋にいて、目の前の路上に落下してくる男性を目撃した。男は即死。死体にかぶせられたシーツから滲んできた真っ赤な血が忘れられない。ガブリエラは殺人事件にとりつかれてしまった。数年後ガブリエラは美しい年頃の娘となり、ボーイフレンドもできたが、彼女の頭の中はいつも殺人事件でいっぱい。部屋中の壁にもスクラップにも殺しの切り抜きが満載されている。おりしも世間を震え上がらせている連続殺人事件が発生していた。富豪夫人ばかりを狙い、すぐに致命傷を与えず、ナイフで何箇所も刺し、被害者が恐怖におびえて逃げまわるところをおいかけてまた切りつけ、這いずり回らせて弱ったころに、首を切断して絶命させるという残酷きわまるやりくちだ▼ガブリエラは殺人事件の後始末をする清掃会社に就職した。社長は現場がいかに凄惨を極めているか、悪臭を放っているか、夢にうなされるか、食事がのどを通らなくなるかをさんざん言ってきかせ、翻意するならいまのうちだとすすめるがガブリエラはオーケーだ。同僚はそんな彼女を変人扱いにし、職場では友達もできない。待ちかねた連続殺人事件の現場清掃の仕事が入ってきたとき、みないやがって引き受けない。被害者が逃げまわり現場の壁も家具も血だらけであるうえ、首を切断した場所は血の海。ちょっとやそっとの掃除ではおいつかないからだ。それでもガブリエラが「わたしがやります」名乗りでたものだから相棒は文句たらたら。掃除は必ずふたり一組、ペアで行うのが規則なのだ▼殺人犯ブルー・マッド・キラーことポール(ウィリアム・ボールドウィン)はその日も言葉巧みにつぎなる犠牲者に近づき、自宅に連れ込み犯行を終えたが、彼女は最後の力をふりしぼって犯人の名前を床に書いた。どくどく流れた血が名前を隠し、ポールは消しそびれてしまう。その現場の清掃がガブリエラに回ってきたのだ。清掃が終わり、ガブリエラはボーイフレンドを連れてきて現場を案内する。死体だ、殺人だ、血痕だと夢中になってしゃべるガブリエラに彼氏はウンザリして帰ってしまう。ガブリエラはラジオから流れる音楽にあわせ、情熱的に踊り始める。そこへポールがもどってくる。ガブリエラは彼が犯人だとわかっても質問攻めにする。ガブリエラにはどうしても確かめたいことがあったのだ。ギロチンで処刑されたとき、切り落とされた首が口を利いたというのは本当か。ポールが殺した犠牲者はなにか言ったか。しつこくきくガブリエルに、ポールはナイフをかざして迫るが血痕に足を滑らせ転倒、気絶する。ガブリエラが絶好のチャンスを逃がすはずがない。カセットを取り出し録音をセットし、ポールの首を切断して首がモノをいうか確かめようとする。血だらけの首をもちあげ、耳をすませた彼女は「ガ、ガ、ガブリエラ」というポールの声を聞いた!▼それだけの映画である。ラテン系の出演者と音楽。ガブリエラの無意味な情熱。しかしそもそも情熱とは損得勘定や合理性とは無縁のところで派生するものにちがいない。彼女の場合「殺人事件おタク」ではあるが、だから探偵稼業をするか、というとそうではない。推理して解決し稼ぐのではなくただ血の匂い、血の色、それが象徴する殺意と犯行、切断された肉体の一部(特に首)、それらが性的興奮に近い吸引力を放つ。アブナイ女なのである、彼女は。一歩まちがえばポールと主客転倒していたかもしれないヒロインを、どこまでも無邪気で押し通したのが監督のブラックだろう。