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シネマ365日

2012年11月23日

アイデンティティー(2003年 サイコ・サスペンス映画)

監督 ジェームズ・マンゴールド

出演 文中に含む

映像が明かした、連続殺人犯の心相 

サイコ・サスペンスの快作。見応えあります。監督も俳優も、らくらくと実力発揮しているところが楽しいですね。解離性同一性障害(DID=多重人格)の、感情の整理がうまく映画言語に翻訳されていたことも、この映画をわかりやすくした理由ですね。キャストも豪華、というより値打ちのある俳優をさりげなく配置しています。ジェームズ・マンゴールド監督は監督デビュー作「17歳のカルテ」でアンジェリーナ・ジョリーにアカデミー助演女優賞を、「ウォーク・ザ・ライン/君につづく道」でリース・ウィザスプーンに同主演女優賞を取らせました。最近ではご存知トム・クルーズとキャメロン・ディアスの「ナイト&デイ」があります。女優と相性のいい監督ですが、もうひとつぜひ書いておきたいのが本作で多重人格の犯罪者を演じたプルイット・テイラー・ヴィンス。マンゴールドの監督デビュー作「君にあいたくて」からのつきあいです。名作・佳作・快作には忘れられないラストシーンがありますが、これもそのひとつ「海の上のピアニスト」です。プルイットは船と共に沈んだ天才ピアニストの友人トランペッターを演じました。音楽はあきらめたと彼はトランペットを売りにきて、最後にもう一度吹かせてくれとある曲を演奏する。そこから物語が始まります。聞き終わった店主は黙って彼にトランペットを返す。トランペットを持って街に消えていく後ろ姿で映画は終わります。プルイットの役得でしたね▼本題に入らねば。豪雨のため立ち往生した旅客男女10人が1軒のモーテルに集合する。女優のカロライン(レベッカ・デモーネイ)と運転手エド(ジョン・キューザック)、娼婦パリス(アマンダ・ピート)、新婚夫婦ルーとジニー、囚人誤送中の刑事ロード(レイ・リオッタ)たちだ。みななにかいわくがあるような身の上だ。最初の犠牲者は女優のカロライン。彼女の頭部が洗濯機の中から発見される。電話は不通。疑心暗鬼のなか、元刑事だったことを明かしたエドを中心に捜査が始まった。でもこれは惨劇のほんの開始にすぎない▼シーンは転換。真夜中に電話で起こされた判事に意外な用件が告げられた。彼が死刑判決をくだした事件の再審理がこれから始まるというのだ。明日死刑執行される犯人を再審理? 弁護側から新しく提出された証拠は、死刑執行のため目下護送中の犯人マルコム(プルイット・テイラー・ヴィンス)の死刑を中止させるだけの根拠があるというのか。弁護側は再審理に判事の同席を求めているという電話だ▼モーテルでは泊まり客たちの死が続いていた。ルーと囚人はなにものかに殺され、親子3人連れの父親は車に挟まれ圧死。母親は事故の傷がもとで息をひきとり息子のティニーだけが残った。死体のそばには必ずモーテルのキーが「10」「9」「8」と死へのカウントダウンのように置かれてあった。異常事態から車で脱出しようとした一行が、車にかけよったとたん車は炎上爆発、消火後車の中にあるはずの焼死体が消えていた。それだけではない、いつのまにかすべての死体が血痕のあともなく消えていたのだ。残る生存者はエド、パリス、ロード、ラリー(モーテルの主人)。犯人はこの中にいるのか▼場面は一転。パリスの念願がかない、オレンジの果樹園を経営している。そんなに広くはなさそうだがパリスがひとりできりもりするには十分な広さのようだ。小さな家があり、パリスは洗濯物を干したり、家のまわりを片づけたり、こまごまと立ち働く。幸せそうだ。パリスは生き延びたらしい。モーテルの惨劇はどうなったのだろう。土を掘り返すパリスの熊手がなにかにひっかかった。取り出してみると、それは悪夢のキー。パリスの部屋「7」だった。背後に近づいた影が言った。「お前の番だ、アバズレ」振り向いたアリスが見たのは、憎々しげに顔を歪めた少年ティニーだった▼死刑囚マルコムが到着した。死刑執行のためであるがいまは事情が違う。再審理の席に召喚されたマルコムは、なにか詩のような言葉を繰り返す。同席した弁護士と精神科医は、彼の発する言葉と、彼の日記から、彼が無意識のなかで数人の人格になりかわっていたことを指摘した。別の人格が引き起こした犯罪に責任は問えるのか。マルコムの死刑は中止された。誤送されるマルコムに同乗した精神科医がつきそう。途中、マルコムが聞き取りにくい言葉をつぶやいた。「なんだね」仕切り壁をあけ精神科医は聞き直した。マルコムが言った言葉は「お前の番だ、アバズレ」形相が変わったマルコムは両腕をのばし、精神科医ののどを締め上げる…。映像が解き明かした連続殺人犯の心相が秀抜だ。