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特集「ディーバ(大女優)」

2012年12月2日

特集 ディーバ(大女優) ソフィア・ローレン 
エル・シド(1961年 事実に基づく映画)

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監督 アンソニー・マン

出演 ソフィア・ローレン/チャールトン・ヘストン

魂の純度 

1960年代テレビの普及に押され、劣勢に立ったハリウッドはテレビができない超大型スクリーンによる歴史大作ものを打ち出した。1959年「ベン・ハー」のアカデミー賞主要部門の独占と大ヒットはますますこの傾向を強めた。大型化時代にチャールトン・ヘストンほどスクリーンに見栄えする役者はいなかった。貴族的な高いワシ鼻、思慮深い目、引き締まった長身に鍛え上げた筋肉、本作でもスペインの貴族がまとう、くるぶしまである長いマントをひるがえす後ろ姿が、あれほどカッコいい俳優にはまずお目にかからない。そこへソフィア・ローレンの登場である。大型に向き合うには大型しかない(大型とは大味の意味ではありません)▼観客を弄する脚本が面白い。ローレン扮する貴族の跡取り娘シメンは父一人子一人である。その父をヘストン扮するエル・シド(このときはまだロドリゴ。エル・シドとはスペインの伝説の英雄をさす)が剣の勝負で殺す。シメンは愛しながらも父の復讐のためロドリゴを許さない。領地を、いや国をかけた剣闘試合がもちあがり、競技に勝ったロドリゴはシメンをめとることを王に申しでて祝福を得るが、シメンはさっさと修道院に入ってしまう。ことあるごとに復讐、復讐というシメンに「剣の試合のなりゆきで死んじゃったのだからロドリゴのせいじゃないだろ。男同士には後にひけないメンツってものもあるだろ」観客がロドリゴの肩をもちたくなるころ、シメンはころり「わたしを許して。わたしが悪かったわ」といってしおらしくロドリゴの前に現れる▼頑固な女だったけどわかったのなら、ま、いいか、と観客は思ってしまう。つぎ。シメンを愛するオルドニス伯爵(ラフ・バローネ)は恋敵がロドリゴだ。彼を父の仇と狙うシメンと組んでロドリゴを謀殺しようとたくらむ、この裏切り者、卑劣漢、女のために友を陥れようなど武士の風上にもおけぬ。だれでもそう思う。ところがシメンがロドリゴを愛することになったとたん、伯爵は嫉妬もヘチマもあればこそ。ロドリゴに忠誠を誓い、命を捧げる。こ、これぞ武士の鏡(あっというまに変わりすぎるけど)。きわめつけはロドリゴの主君。どうしようもないアホ国王で、ロドリゴの忠告をききいれないばかりか、ツラあてにあべこべのことばかりして国のピンチを招く。ロドリゴに人望が集まっているのがしゃくで、しゃくで仕方がない。部下のいうことに貸す耳もたぬ社長みたいなものだ。でもロドリゴは国王に手柄は譲る、領地は確保してやる、名誉は守る、どこまでも臣下ロドリゴの域をこえない。愚かな主君とは存在することだけで公害ではないのか、政道を正すためには排除もやむをえないのではないか、人が好いのもいいかげんにしろ、観客がこぶしをふりあげたくなるころ、愚かな王は雷に打たれたようにめざめ「ロドリゴ余を許せ」と言って重傷のロドリゴのもとに駆けつけるではないか「それみたか、バカモン」なんてロドリゴはいいませんよ。「自分に打ち克つことほど難しいことはありませぬ。それをやってのけられ今や真の王となられた。もうわたしが案ずることはございません」なんと、なんと、神々しいまでの騎士道なのだ▼ソフィア・ローレンはそばにいてこのやりとりを聞いている。彼女にとっては「ちょっとはわたしの身にもなってよ。一夜の契りで得た娘(それもうまいこといっぺんに二人、つまり双子なのだ)も順調に大きくなり、この戦争に勝ったらスペインに平和が戻るというときに、その傷も養生次第で治るかもしれないのに死んでも出陣する、ですって。英雄よりただの男のほうが女は幸福なこともあるのね。わかるのが遅かったけど。それになに最後の頼みだ? どうせ男の逆転勝利の戦略とかいうものでしょ。わたしはあなたをしばりあげてでも親子4人、ここから逃げ出したいくらいだけど。いいわ。聞いてあげるわ」というみたいな顔をしている。その頼みというのがロドリゴを伝説にした騎乗のエル・シドである。ロドリゴ(そのときはすでに民衆は彼をエル・シドと呼ぶようになっていた)が、敵陣では戦闘中の傷がもとで彼は死んだ、もうこわいものはないと勢いづいている。味方に不安が広がる。エル・シドは瀕死の身をこらえ塔の上にみせ「この通り大丈夫だ、翌朝先頭にたって出陣する。おれといっしょに総決戦に臨むのだ」と激をとばす。妻に託した最後の頼みがこの出陣である。シメンはエル・シドの遺体をよろいでおおい、右手に旗を、左手に白馬の手綱をにぎらせ城を開門する。城は海辺にそそりたっている。愛馬とともに波打ち際を進むエル・シドの威容に敵陣は潮をひくように後退する。城の砦からシメンが娘たちとともに死せる夫の出陣を見送っている。アンソニー・マンが描きたかったのは一貫してエル・シドという魂の純度の高い人だったのですね。シメンの豊かな愛情も相まって、この映画をじつに格調高いものにしています。世人は「魂の純度」という人間の魅力を決定的にする条件、人をひきつけてやまないそれを暗黙裡に理解し惜しみなく喝采した。制作費620万ドルに対し本作の興行収入2662万ドルはその証しです。

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