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シネマ365日

2012年12月14日

灼熱の魂(2010年 社会派映画)

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監督 ドウニ・ヴィルヌーヴ

出演 ルブナ・アバザル/メリッサ・デゾルモー=プーラン/マキシム・ゴーデッド

母親の遺した謎と秘密 

時間軸がふたつある。ひとつはパレスチナ難民のナワル(ルブナ・アバザル)という若い女性が、キリスト教徒の男と恋に落ち駆け落ちしようとしたが恋人は殺され、ナワルは子供を産む。ナワルも殺されようとしたが祖母が止め、大学で知識を身につめることを約束に街へだす。子供は孤児院に送られる。内戦で大学は閉鎖、ナワルは子供を探しに教えられた地方の孤児院を回るが、激しい戦火で孤児院は焼け、子供も絶望視される。ナワルは子供を奪った敵方への報復手段としてテロ組織に加わり、敵幹部を暗殺する。その代価は高く彼女は刑務所に15年、獄中過酷な処刑人として知られるアブ・タレクという男から、洗脳を意図したレイプで毎日拷問され、みごもった。刑期を終えたナワルは組織の手によってカナダに亡命し、今は双子の姉弟とともに暮らし、公証人の秘書として18年勤めている。ある日プールサイドで体調を崩し入院、公証人に遺言を残し亡くなった▼もうひとつの物語は母親の遺言を果たすべく、母の生まれ故郷まで足跡を追った娘が、そのプロセスで初めて知った母の過去だ。遺言そのものが不可解だった。閉じられた封書が2通。それをあなたたちの父と兄にわたしてほしい。渡し終えたら私を墓に葬ってほしい…父は死んだ、兄はいない、いったいだれに母は渡せというのか。弟は母親に対して懐疑的だ。母は決して自分たちに心を開かなかった。親しみも愛情も感じなかった。いまさら彼女のいうことをマに受ける必要はない。姉はちがう。母には自分たちにも言えないなにかがあったのだ、と確信する。母の過去をさかのぼる旅がもうひとつの時間軸です▼母親の祖国中東の、舞台は原作者ワジディ・ムアワッドの出身地レバノンだと推定されます。ナワルは1949年生まれ、彼女が大学で勉強する時期は日本の学生運動の時期と同じだが、中東ではキリスト教徒とイスラム教徒の内戦が勃発していた。どちらもの武装勢力によって国土はズタズタ、その激しい憎悪の対立、砂漠のなかでぽつんと燃えるバスのさびしい風景、日本人の叙情的な感覚からは想像できない映像だ▼姉ジャンヌは刑務所で母のお産に立ち会ったという看護師をつきとめ、彼女がいる介護施設に訪問する。母がレイプされみごもり、刑務所で兄を産んだ、とジャンヌは信じていた。しかし元看護師は生まれたのは双子だったと言ったのだ。母を家族同様に扱っていた親切な公証人の支援を得て、姉弟は中東で調査を再開する。自分たちがレイプの結果生まれた双子だとすれば、兄とはいったいどこにいるだれなのか。ますます混迷する母親の闇に、弟は尻込みし追跡を投げ出そうとするが姉は承知しない。同性に伝わってくる母親の秘密の波長があるのだ▼もうひとり追跡しなければならない人物がいた。母が産み落とした男児だ。公証人の手引きによって弟シモンは、孤児院を破壊したイスラム武装勢力のリーダーにたどりつく。彼は保護した孤児を優秀な狙撃手に育て上げた。彼は戦闘で負傷したものの、銃殺されず洗脳を受けて拷問専門の処刑人となった。彼がどうにもこうにもいうことをきかない女囚の洗脳のために送り込まれた刑務所に母がいたのだ…調査を終え真実を知った弟は姉につぶやく「1+1は2だろう。でも1+1が1だったらどうする」その意図を知ったジャンヌは悲鳴をあげる。すべてがわかった。姉と弟はカナダにいる元刑務所の拷問人にして自分たちの父であり兄である男を訪ね、2通の封筒を手渡す。約束は果たされたのだ▼物語の重さに加え独特な映像でした。ヴィルヌーヴ監督は45歳カナダのケベック出身。「灼熱の魂」はアカデミー外国語映画賞にノミネートされましたが、その前にカンヌ国際映画祭カナル・プリュス賞受賞という「華麗なる晩餐会」を撮っています。晩餐会の床が抜けて落ちる、ほこりまみれになった紳士淑女たちはそれでも狂ったように食べるのをやめない、また床が抜け、際限なく彼らはむさぼりながら地下に落ちていく。でもそういうサイケな内容なのに作劇術はクラシックともいえるほど堅実堅牢なのです。そのテクがいかんなくこの映画にも発揮されている。サスペンスが徐々にクレッシェンドしていく後半の盛り上がりはみごとです。130分の長尺ですが見応え充分です。

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